2024年11月23日(土)

WEDGE REPORT

2019年7月18日

 昨年暮れ、本誌は紅海に面するジブチ取材を試みた(『アフリカ・ジブチに走る中国式「砂漠鉄道」の正体』)。一帯一路を象徴する国であり、日本にとっても安全保障上のチョークポイントに位置している国であるからだ。このジブチには海外では唯一の中国の軍事基地も存在している。その存在とともに米国の安全保障関係者などが注視したのが、16年に中国の基地に隣接して開設された「クラウド・データ・センター」である。またジブチには先に紹介した海底ケーブル「AAE−1」の陸揚げ基地局も同じ頃に開設されている。両者ともに受注したのはファーウェイなのだ。

 アフリカが中国にとって重要な戦略地域であることは今さら論を俟(ま)たない。それは情報戦略においても同じだ。同社はエジプトでモバイル、光ファイバー設備を受注、アルジェリア、アンゴラでもネットワーク機器の大半をファーウェイが受注。同社の通信ネットワークはアフリカ全土に張り巡らされているのである。

ドル取引を止められた
バンコ・デルタ・アジアの屈辱

 明確な意志を持って中国は米国に取って代わる覇権国家になろうとしている。情報を含めた一帯一路はその戦略に他ならない。

 中国は果たして覇権国家になれるのだろうか。覇権国家の要素を、(1)経済力、(2)軍事力、(3)金融センター機能、と定義するならば、中国に圧倒的に欠けているのは(3)の世界の金融センターとしての機能だ。だが、中国が必死に通貨「元」の国際化を図ろうがドルの地位は揺るがない。だからこそ、中国は世界を駆け巡る情報を握る海底ケーブルを押さえ、世界中の情報が集積するこの〝海の道〟に「元」による決済機能を乗せ、ドルに拮抗する〝元経済圏〟を構築したいのだ。

 中国には忘れ難い屈辱の経験がある。05年9月、時の米ブッシュ政権は「資金洗浄(マネーロンダリング)に関与の疑いが強い」として中国の特別行政区マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」に対し、金融制裁を課した。これにより同銀行は一切のドル取引ができなくなり、同銀行を生命線としていた北朝鮮は干上がった。なぜなら、同銀行と取引をすれば米国政府の制裁対象となりドル取引ができなくなるからだった。周到に準備された金融制裁を前に、北朝鮮は白旗をあげた。裏で北朝鮮に血液、つまり資金提供していた中国もこの時は一切、供給を断念せざるを得なかった。ドル取引が止まれば、中国経済が干上がるのも明らかだった。

 ある意味、中国の世界中に情報を押さえ、その情報網に「元」決済を広げ、ドルに対抗する国家戦略はこの時から始まったといえる。そして、「バンコ・デルタ・アジア」の屈辱からおよそ14年。中国は再び悪夢を見せられる。ファーウェイへの金融制裁がそれだ。

 通信技術、ハイテク分野での中国の独走に対し、トランプ政権が対抗したのはファーウェイの米国の金融システムに対する詐欺罪での訴追である。罪が確定すれば、米財務省の制裁対象リストに載る可能性が極めて高い。そうなった場合、ファーウェイに待っているのは、かつて「バンコ・デルタ・アジア」が辿った道である。すなわち、ファーウェイのドル取引は一切禁じられることとなる。

 「ファーウェイを絞め殺す」(米国防省関係者)

 6月3日、ファーウェイは海底ケーブル事業を中国企業に売却することを発表する。だが、海の底を舞台とした両国の覇権争いはまだまだ予断を許さない。

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■米中制裁ドミノ  ファーウェイ・ショックの先
Part 1   ファーウェイ制裁で供給網分断 米中対立はコア技術と資源争奪戦へ
Interview  日本企業は機密情報管理体制の構築を急げ
Column   レアアースは本当に中国の切り札なのか?
Part 2         通信産業の根深い「米中依存」分断後の技術開発の行方
Part 3         ファーウェイ・ショックを日本は商機に変えられるか
Part 4        「海底ケーブル」と「元経済圏」中国の野望を砕く次なる米制裁
Part 5   激化する米中経済戦争 企業防衛の体制構築を

  
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◆Wedge2019年7月号より

 

 
 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 
 


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