2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年2月2日

 こうしてみると、現今の報道は、金正恩のパーソナリティにスポットが当たり過ぎている観がある。若くて経験不足のため、権威づけを目的にある種の挑発行為をするのではないか、朝鮮半島有事が現実味を帯びてきた、というような議論が多い。

 確かに不安定性が増してはいる。しかしそれは、金正恩個人の資質というより、国際環境の変化によるところが大きい。とりわけ中国の大国化である。中国のプレゼンスがあまりにも巨大化したことから、北朝鮮の政権内でアメリカに接近する発想が生じたばかりではなく、韓国でもアメリカか中国かで、政策が揺れはじめた。中韓自由貿易協定(FTA)に対する韓国政府の決断も、それを示していよう。

 南北ともに中国の動向にとまどっているのが実情なのであろう。しかし以上に述べてきた、歴史的な勢力の二元構造と均衡状態が変わらないかぎり、またそれらを変えようとする意思がはたらかないかぎり、朝鮮半島内で短期的な動揺はあっても、国際政治の枠組全体に関わる大きな変動はあるまい。アメリカはもとより、中国自身もそれを望んでいないだろう。金正日に対する中国の弔意表明と来たるべき米韓軍の大演習は、それを示すものである。

日本は、目前の転変を冷静にみつみるべき

 目前に大きな事件・変化とみえることでも、結局そうでなかった例は、史上におびただしい。最近では、日本の自民党から民主党への政権交代がその最たるものである。当初、沸きあがった変化への期待は、3年たって周知のとおり、ほぼ裏切られる結果となった。金正日の死去と金正恩の後継も、どうやらそうらしい、というのが歴史屋のいわば直感である。

 だからといって、われわれが手を束ねて安閑としてよいわけではない。朝鮮半島の二元勢力は、政治的・軍事的・経済的にあやういバランスを保っているだけである。その破綻は防がなくてはなるまい。そこで日本人にとって、中国の動きが鍵になること、古今やはり変わりはない。長期的な趨勢を忘れず、目前の転変を冷静にみつめる姿勢こそが求められる。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学准教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)


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