世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2019年8月9日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員・未来工学研究所客員研究員・京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教

1993年生まれ。2012年米国ウエストバージニア大学において、国際政治学や通訳翻訳等を学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。笹川平和財団安全保障事業グループ研究員、外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官を経て、現職。専門は、国際公共政策、パブリック・ディプロマシー、ストラテジック・コミュニケーション、メディア研究、世論等。

「嫌われ者」でも「脅威」とは限らない

 2017年の米国ピュー・リサーチ・センターの調査によると、大方の国際社会がロシアに対してネガティヴなイメージを持っており、特に米国や欧州においてこの傾向が強いことが明らかになっている。ロシアに対して好感度を持っている米国世論は、たった29%(世界の平均は34%)で、またプーチン大統領に対する米国の信頼度は23%(世界の平均は26%)にとどまっている。また、地域別では、ロシアに対するネガティヴな見方が最も広範に見られたのは、米国(63%)と欧州(61%)となっている。ロシアに対する否定的な見方は、特に欧米地域で多いようだ。

 ただし、こうした世界の対ロ世論のうち、ロシアを「脅威」として考えるものは決して多いわけではない。ロシアを「自国に対する主な脅威」として回答した割合は、37か国の平均ではわずか3割にとどまり(米国は47%)、米国や中国が「脅威」であるとの世界の見方とさほど変わらないことも明らかになっている。

 こうした国際世論の動向が示すのは、ロシアに対する大方の見方は未だにネガティヴであり、特に欧米でこの傾向が強いということであるが、「脅威」というレベルで見れば、米中が依然として支配的であり、ロシアにとっては俄かに大きな問題とはならない、ということであると総括できよう。

「権威主義」の対外発信は、結局「世論操作」なのか

 情報通信技術の飛躍的な発展とグローバル化の進展とともに、国際世論が外交に大きく影響する時代となった今日、ロシアにとっては、自国に対するネガティヴな国際世論を軽減することが急務である。ロシアのパブリック・ディプロマシーも改善の余地が大きく、例えば、ソーシャルメディアの発信では多言語化されていないことや、双方向性のある発信となっていないこと等が挙げられる。そのため、対外発信の多言語化や双方向性を重視した発信への転換が求められており、また、市民外交やネットワーク形成とその活用の重要性についても着眼されることが望まれる。

 しかし、米国社会や欧州では、ロシアに対するステレオタイプや、ネガティヴなイメージが強いため、ロシアがどれだけ純粋で穏当なパブリック・ディプロマシーを展開し、バイアスのない公平なメッセージを発信したとしても、こうしたイメージが邪魔をして、メッセージ自体が受け入れられにくく、「プロパガンダ」や「世論操作」であるとの受け止めに止まってしまっていると考えられる。

 米国当局が指摘するところの、いわゆる「権威主義国家」が展開するパブリック・ディプロマシーも、それには必ず国家の体制や過去のイメージが付きまとい、「民主主義国家」では受け入れられない、ということなのかもしれない。そもそも、民主主義国家とは政治体制が異なるため、欧米の価値観に基づくパブリック・ディプロマシーとは相容れないことは、当然かもしれない。

 かといって、パブリック・ディプロマシーを諦め、政治宣伝やサイバー空間を利用した世論工作や、政治・軍事介入といった手段に出れば、民主主義国家は自国に対する直接の脅威だと認識し、決して野放しにできないだろう。ロシアはそのことを理解すべきである。

 あらゆる「脅威」がはびこり、イメージをめぐる国家間の対立が激化する今日の国際社会だからこそ、真の意味でソフトワパワーに関連したパブリック・ディプロマシーに価値が見出されることに期待される。


  
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