昨今、ロシアによるサイバー攻撃や世論工作が、欧米を中心に話題となっている。ロシアは、中国と並びシャープパワーを行使する国として、米国からの非難の対象とされている国の一つだ。例えば、2016年の米大統領選への介入をはじめ、数々のサイバー攻撃や、ロシア国営メディア等による「プロパガンダ」活動に対し、警戒が高まっている。ロシア側は否定しているものの、これが本当なら、欧米社会にとって深刻な脅威である。そしてロシアの企ては、欧州における選挙でも発覚した。
ロシアは、「最も深刻な脅威」
2019年7月24日、米議会下院の公聴会において、2016年米大統領選へのロシア介入疑惑、いわゆる「ロシア疑惑」について、モラー元特別検察官が証言したことで、これに対する捜査に加え、欧州でのロシアによる選挙介入等についても注目が集まっている。
捜査を指揮したモラー氏は24日の公聴会で、「ロシア疑惑」捜査について、「ロシアの野党勢力による政権転覆を狙った試みであり、魔女狩りだ」とした公正性を欠いたトランプ大統領の主張には反論したが、同時に、「ロシアの手法を模倣する国も現れている」と、注意喚起した。
ロシアのサイバー攻撃や世論工作は、非常に大規模で組織的な企てであるケースが多い。米国では、中国と並び、ロシアのサイバー攻撃や世論工作については、「過去に直面した脅威の中で最も深刻」とする見方が示されるほど、警戒感を強める問題である。インターネット上で世論を操作する組織の拠点が、少なくともサンクトペテルブルクには所在することが確認されている。
欧州議会選でロシア介入か
そして、ロシアの目は、欧州にも向いたようだ。例えば、2019年5月23〜26日に行われた欧州議会選挙である。この選挙は、欧州統合を支持する勢力と、統合に反対し極端な民族主義を唱える極右ポピュリズム勢力の大激戦となったが、裏でロシアが選挙介入を行なっていた疑いが持たれている。
選挙が目前に迫った段階では、ロシアや極右グループがネット上に偽情報を拡散していることが確認されていた。ニューヨーク・タイムズによれば、EUの捜査機関や学者等が、2016年の米国大統領選への介入でロシアが使用した戦法やデジタル痕跡との類似点が多いと報告した。イタリアやドイツなどにおいては、一部の政治団体が、米国に対してロシア人ハッカーが使用したものと同じサーバー等を共有しているという報告も上がっている。
ロシアによる諸外国への選挙介入や情報操作は、ロシア政府の考えや手法までも模倣する組織や国が出現したことにより、問題が複雑化し、欧米の当局も、手の施しようがなくなってしまうという事態にまで発展している。流通する情報が、模倣組織による偽情報なのか、ロシアによるプロパガンダ作戦なのか、または正当な政治論争なのか、見分けることがますます難しくなっているからだ。SNSを中心に出回る偽情報に欧州全体が翻弄されているのが現状のようだ。
ポピュリズム勢力が出現したのは、欧州における移民や難民問題が発端であった。そこに、欧州内での経済の停滞や格差の拡大といった問題が拍車をかけ、2014年の欧州議会選挙以降、急速に広がっていったといわれる。
そうした中、ポピュリズム勢力や極右勢力が、資金援助や協力を求めてロシアに接近するという事態へと発展した。EUの分断を望み、こうした勢力との利害関係が一致していると考えたロシア政府は、中・東欧諸国の親ロシア派勢力の中から「Copycats(模倣者)」を見つけ出し、活動を支援するなどし、「欧州分断工作」を仕掛けているとの見方も広がってきている。