余暇があっても増えぬ自己研鑽
このような状況下でも、増えた余暇時間を使って、労働者が自ら、仕事に役立てるための勉強や技術・資格の取得など、いわゆる「自己研鑽」を行えば人的資本形成は維持できる。
しかし、前出のRIETIのプロジェクトで行った筆者らの研究からは、1年間に何らかの自己研鑽を行ったと答えたフルタイム労働者の割合は41・3%(06年)から34・5%(16年)へと、この10年で大幅に減少していることが分かった。
特に大きく減少しているのが就業時間外の職場における自己研鑽の実施率だ。残業抑制によって職場に残れなくなったことで、労働者の教育機会が減少したといえる。もちろん、職場での教育訓練の時間が減少したとしても、その分、職場外での研鑽の時間が増えればよい。実際、分析では職場での残業手続きが厳しくなった人ほど自己研鑽の時間を増やしている傾向は僅かには認められた。
しかし、その時間の増分は年間5時間未満程度の人が圧倒的に多く、職場の教育訓練投資の減少分を補うほどではないことも分かった。また、職場外での自己研鑽を増やしているのは相対的に年齢が高い40歳以上の層で、40歳未満の若年層は自己研鑽に時間を増やしていないこともデータから明らかになった。
しわ寄せを受けるマネージャー層
長時間労働削減のもう一つの副作用が、マネージャー層への「しわ寄せ」だ。週労働時間が35時間以上の人に占める60時間以上の人の割合を年齢層別にみると、02年には30~39歳が26%と突出して多かったものの、18年には40~49歳が16・1%と最も多くなっている。(下図2)
40代は各企業でマネージャーを務めている年齢層である。労働時間管理が厳格化している中、割増賃金が適用されない「管理監督者」には、いわゆる「プレイングマネージャー」として業務のしわ寄せが起こっていると考えられる。こうしたマネージャー層の心身の健康の確保も大きな課題である。
こうした状況下で、企業は今後どのように労働時間削減と向き合い、付加価値の向上をはかっていけばよいのか。