まずは、今後も職場での育成、人的資本投資が生産性向上のために不可欠であることを認識する必要がある。若年層の中には、十分な教育訓練投資を受けることができていないことに危機感を抱いている人も多いはずだ。しかし、行動経済学の知見からも明らかにされているように、人間には、遠い将来のことを大きく割り引いてしまい、今の楽しみを優先してしまうという認知の歪みがある。危機感を持っていても余暇時間を自らの人的資本形成に費やすことができない若年層の育成には、職場での教育投資が引き続き重要だ。
ただし、長時間労働を前提とした従来の教育訓練投資のスタイルは変えていかざるをえない。今後は80%程度のクオリティーで済ませても良い仕事と、120%のクオリティーまで追求すべき重要な仕事とをうまく判別し、業務内容にメリハリをつけながら若手を育成していくことが求められる。
余裕がない企業で働く労働者には十分な教育機会が与えられず、若年層の間で人的資本の格差が拡大していく可能性も懸念される。今後は企業単位でなく社会全体での教育投資を行っていくことも重要だ。政府による副業やリカレント教育の推進に加えて、学校教育の在り方も抜本的に考え直していく必要があるだろう。
高等教育機関は、教養を深める場であると同時に、仕事に不可欠なスキルを学ぶ場を提供することも求められる時代になってきている。企業には、労働者が必要なタイミングに応じて、一時的に仕事を中断し、学びの場に戻り勉強に専念することができるような機会を許容する体制の構築や学びへのインセンティブを与えることも望まれる。
働き方改革は生産性向上とセットでうたわれることが多く、現在多くの現場では生産性の分母であるインプット(労働時間)を削減することに注力している。短期的には労働時間の削減により時間当たりの効率性は増すかもしれないが、重要なのは目先の生産性向上ではなく、持続的な経済成長である。労働時間の削減に注力するあまり、日本の中長期的な生産性向上が損なわれないよう、注意する必要がある。
■再考 働き方改革
PART 1 働き方改革に抱く「疑念」 先進企業が打つ次の一手
PART 2 労働時間削減がもたらした「副作用」との向き合い方
PART 3 高プロ化するホワイトカラー企業頼みの健康管理はもう限界
PART 4 出戻り社員、リファラル採用……「縁」を積極的に活用する人事戦略
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