新たな価値を創造するための働き方が模索されているが、同時に人材の採用や運用の見直しも行われている。大手企業でも注目されはじめたのが、「縁」を生かした採用戦略である。いい人材を獲得するために企業が採用形態を変化させる動きとして、社外の優秀な知り合いを社員に紹介してもらい選考を実施する「リファラル採用」が広がりつつある。
エン・ジャパンが約500社を対象にしたアンケート、「リファラル(社員紹介)採用について」(2017)によると、実施している企業が約6割に上り、そのうち3割が制度化している。また企業側の考えるメリットとして、「採用コストが削減できる」「ミスマッチのない採用ができる」「紹介者である社員のモチベーションアップ」などが挙げられている。
リファラル採用で入社した社員が全体の5割を占めるメルカリ。同社では知り合いを〝口説く〟ための会食費用を積極的にサポートし、採用された場合に紹介した社員へのインセンティブ制度も設けるが、何より社員にメルカリのミッションやバリューを理解したうえで、知り合いを紹介してもらうことを重視する。HRマネージャーの岩田翔平氏は、「前職の同僚や取引先の社員など、業務上で関わりのあった知り合いの紹介が多い。実際に働く姿を知っているから、当社の価値観に合うかイメージしやすいのだろう」と語る。
リファラル採用の活性化には、社員が会社の良さを知人に語る必要があり、つまりは社員が企業に強い愛着を持つよう、企業のフォローが必要となる。同社では、社員の会社へのエンゲージメントを測るシステムを用い、人事が「あなたの知人や友人に、メルカリで働くことを薦めますか?」と定期的に質問。点数が低い部署に対しては、コミュニケーション改善や評価体制の見直しなど、職場環境の改善を図る。「社員の会社に対する愛着を高めてもらうことが、効果的な運用につながる」と岩田氏は語る。
富士通ではキャリア採用の一環として昨年から導入。そのメインターゲットはエンジニアだ。自動車業界や金融業界などとの熾(し)烈な人材獲得競争においては、従来のようにエージェントに頼り人材の応募を待つだけの形に限界を感じていた。そこで頼ったのが、社員の人脈。「いいエンジニアはいいエンジニアを知っている」(人材採用センターマネージャーの黒川和真氏)。社員が紹介した応募者が面接を経て入社すると、その社員に10万円のインセンティブが支払われる。昨年度は約2000人の社員が活動に関わり、約20人が入社した。
黒川氏は「初年度としてはでき過ぎの印象で、社員がいい人材を紹介してくれた。採用に時間を要してしまい、『選考をもっと丁寧にしてほしかった』と社員からの苦情もあった。彼らにとって大切な人を紹介してくれている。今後の課題としたい」と語る。さらに「3万3000人の社員全員が積極的に活動の幅を広げてくれたら」と期待する。
広がるリファラル採用だが、社員が知り合いを紹介する制度ならではのリスクも伴う。エン・ジャパンのアンケート結果によると、企業の考えるリファラル制度のデメリットとして、「不採用による紹介した社員と応募者の関係悪化」を懸念する声が多い。また、「社員は良いところも見ているが、それ以上に厳しい会社の裏事情を見ているので、紹介してくれる人は稀(まれ)」といった声もあげられている。こうしたリスクに対しどうケアするかが、活用の課題となるだろう。
■再考 働き方改革
PART 1 働き方改革に抱く「疑念」 先進企業が打つ次の一手
PART 2 労働時間削減がもたらした「副作用」との向き合い方
PART 3 高プロ化するホワイトカラー企業頼みの健康管理はもう限界
PART 4 出戻り社員、リファラル採用……「縁」を積極的に活用する人事戦略
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