編集部(以下──)近年、多くのビジネスマンが英語学習に追われている印象だが。
成毛:海外赴任や留学など実際に英語を使う必要性もないまま、漠然と英会話や資格の勉強をする人が多い。語学は強固な自己意識に支えられた熱意によってしか習得できない。本当に英語が必要なのは、外資系企業や商社社員、企業の海外部門、官僚、研究者のほか、インバウンドで来日した外国人と直接接する職業の人たちだ。その人数を概算すると、せいぜい日本人の1割。それ以外の大多数の日本人に、英語は必要ない。
──入社基準に資格試験の点数を使用する企業や、若手社員に英語力を課す企業もある。
成毛:1割の日本人に英語は必要だが、若手社員は生きた英語を仕事の中で覚えればよい。私の娘は商社に入り、穀物部門に配属された。そこでTOEICのスコア800点が必要と会社に言われたが、私は娘に「TOEICの勉強はしなくていい。大麦や小麦など穀物に関して誰よりも勉強しろ」と言った。娘はTOEICの点数こそなかなか上がらなかったが、仕事を通じて業務で必要な英語は身につき、さらに穀物に関する知識が豊富という理由で、海外の取引先から指名され、誰よりも早く出世した。仕事の基礎を覚える重要な時期に、英語だけに時間を削(そ)がれるのはもったいない。
──外資系企業で社長を務めたが、英語で苦労しなかったか。
成毛:当初はほとんど話せなかった。海外出張などを通じ仕事の中で身につけていった。英語が使えるか不安な人も多いだろうが、間違いが許されないよほど重要な商談の案件は、通訳をつければよいだけの話。むしろ「読む」ほうが難題だ。ビジネスの現場ではメールや社内資料、契約書、当然ながらすべて英語。貿易や経済用語、法律用語などはしっかり学ぶ必要がある。
──外国人相手のビジネスの場で特に必要と感じたことは。
成毛:すべての英単語を覚えることはできないから、知らない単語や難しい単語を別の言葉で表現できる力が求められる。また海外のビジネスの場では、自国の文化や歴史なども多く聞かれる。世界で活躍する外国人はみな自国のことをよく知っている。その意味で、日本のことを深く知り、自分なりの考えをしっかりと持ち、それを相手に伝えられる人こそ、海外で通用するビジネスマンだ。
──「スピーキング」を含めた4技能の英語改革が進められている。
成毛:生徒の英語力のベースが上がるなら望ましいことだが、重要なのは学ぶ目的意識だ。本当に英語を使う必要がある仕事に就く意志があるならば、大学に入ってから、あるいは職に就いてから、しっかり学べばよい。目的意識なくただ英語に触れるだけでは、いつまでも英語を使えるようにはならないだろう。
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「迷走する日本の英語改革」
PART 1 東大も合否判定に利用せず それでもゴリ押しされる民間試験
PART 2 ここが変だよニッポンの英語教育インタビュー
安河内哲也(一般財団法人実用英語推進機構代表理事・東進ハイスクール講師)
阿部公彦 (東京大学大学院教授)
鳥飼玖美子(立教大学名誉教授)
PART 3 9割の日本人に英語は不要 目的ある学びこそビジネスで生きる
成毛眞(HONZ代表・元マイクロソフト日本法人社長)
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