ヨーロッパで消滅した冷戦構造との本格的対応を迫られた日本
グローバル資本主義の荒波を受け、経済が慢性的に停滞し、国内の格差が広がった。そこまではEUなど先進諸国と同じだが、東アジアの日本では何と、ヨーロッパで消滅した冷戦構造との本格的対応を迫られたのだ。
思想史家の片山杜秀さんは、『平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム』(幻冬舎新書、2018年)で指摘する。
(冷戦構造は崩壊したが)〈北朝鮮のミサイルを考えても、中国との領土問題を考えても、東アジアでは冷戦構造はそのまま保持され、ますます強化されている〉
1989年からの30年は平成の30年間に重なる。結局日本は、盛りを過ぎた落ち目の資本主義国として、ガラパゴス化した冷戦構造とどう向き合うかが今後の課題となる。
1年前の著者インタビューで片山さんに会った時、私はそのことを聞いてみた。
「30年前と違って、現在は中国も自由貿易と市場経済を掲げる国ですよね?」
「そうですが、今後はどの国もかつてのような経済成長を望めない。そうなると、対立するアメリカと中国は、図らずもお互いに似たような覇権国家になります」
なぜなら、グローバル資本主義の時代には、時間と金をかけて質の高い労働者を育てるという民主主義とセットになった国民国家モデルが古くなり、割に合わないからだ。
それよりも、AI(人工知能)やロボットを駆使して人件費を削減し、世界の賃金格差を利用して生産・貿易を拡大した方が、グローバル企業に関わる富裕層には得になる。
「つまり、国民の福祉は低下し、貧富の差は拡大し、中間層はますます没落して行く?」
「それだけではありません。テロとの闘いを口実に、国民の言動への監視・規制が強化されます。プライバシーは侵害され、政府批判は厳しく罰せられます。その方が国民の管理をしやすいからです。現在、そのやり方を中国やロシアが先行して実施し、前近代的だと非難されていますが、いずれアメリカ側も模倣する超近代モデルかもしれません。その時、日本はどちら側につくか。ということです」
前掲書で片山さんは、〈韓国は、今の調子だと、もしかして中朝寄りになるかもしれません〉と予測している。韓国はアメリカとの同盟より中国傘下の南北統一を選ぶ可能性がある、というのだ。
その場合、東アジアの冷戦の最前線は朝鮮半島の38度線から対馬海峡へと変わる。
「強大な中国ブロックと向き合う日本が、本気で自衛を考えれば核武装しかない。でもそれができないなら、手揉み外交でも何でもして、アメリカにすがる以外ありません」
片山さんは「非常に悲観的だけど」と断わって、あり得る近未来について語った。
私は今、東ドイツの若夫婦を思い起こす。言論の自由のない監視国家で、壁の向こう側への脱出を夢見ていた夫婦の姿は、日本の次世代、次々世代とつながっているのだろうか?
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