名門校、未来への学び

2020年1月16日

»著者プロフィール
閉じる

鈴木隆祐 (すずき・りゅうすけ)

ジャーナリスト

1966年長野県生まれ。法政大学文学部在学中より出版社で雑誌編集を始め、その後フリーに。著書に『名門高校人脈』(光文社新書)、『名門高校 青春グルメ』(辰巳出版)ほか。

 数ある女子校の中でも、東大合格率トップを誇り、最も難関とされるのが桜蔭学園だ。単に真面目なガリ勉集団との誤解も多いが、齊藤由紀子校長によれば、「積極的で前向きな生徒が多く、むしろ、当校での6年間を通じ、そんな力がついてくる」という。

 

 どうしてだろう?桜蔭では礼法の授業に特色がある。それも校長によれば、「単に行儀作法を覚えさせることが目的ではない」。東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大)の同窓会、「桜蔭会」の有志により、関東大震災の翌年の1924年に設立された桜蔭は、建学の精神からして「礼と学び」。学びよりも礼が先に来る。そもそも、皇室の教育係も務めた、初代校長の後閑キクノが教えていたのも礼法なのだ。

齊藤由紀子校長

 「礼法はとても合理的にできています。一連の動きに無理無駄がない。狭い場所でも周囲に迷惑をかけず、かつ美しく見える所作が考え抜かれ、そこに現れています」

 と校長。東京のいわゆる「女子御三家」のうち、雙葉はカトリック、女子学院はプロテスタント系だが、桜蔭は宗教色を持たず、代わりに日本人としての道徳的精神を、礼法を通じて生徒に授ける。

 そこには「社会人としての振る舞いの『形』が見受けられる」とも齊藤校長は語る。細かな動作を忘れてしまっても、将来必ず役に立つ。そして、「体幹もまた鍛えられる」と。武家を中心に伝えられてきた、小笠原流をはじめとする礼法の本質は、日常生活の中で行う心と体の「鍛錬」なのだ。

 一見すれば、どこかアナクロで機械的。文字通り、型に嵌める印象もある。だが、この型を昨今、家庭ではあまり教わらない。親世代も身に付いていないのだ。多くの女子伝統校でなお礼法を教えているが、その必要性は逆に今こそ高まっているのではないか—。との私の問いに、齊藤校長も大いに頷く。 

 桜蔭では礼法を中1では週1回、中2・中3では5週に1回、ホームルームの時間を使って学ぶ。高2では女性学と礼法を合わせ、「総合」の時間の中で学ぶ。高2の授業を見学すると、真新しい畳が敷かれた35畳の和室で、白い靴下を履いた生徒たちが上座下座に分かれて向き合っている。そして、お辞儀と茶出茶引(煎茶を出し、下げる)を順繰りに反復する。

「最初は足も痺れ、立った途端によろけるのも仕方ありません。でも、卒業生にとって、『もう一度受けたい授業』の筆頭が『礼法』なんですよ。社会に出て、そのありがたみがわかるようですね。一度その振る舞い方に従い身体を嵌め込み、その上でどう応用するかという力は、どの教科でも必要な要素なんじゃないでしょうか」

 
 
 

 芸事を含む、すべての道に型はある。武道では形稽古がまず要。今日多用される「守破離」も、型に徹した先に見えてくる。礼法はすなわち、「相手に対する思いやりを正しく伝える」表現の基盤となるのだ。ある生徒も5年間の礼法での学びを振り返り、こう話していた。

 「ただノートに板書を写すだけの授業とは違って、考えながらすぐに体で実践するのが新鮮。この動きを将来まで身に沁みつけておきたいです」

関連記事

新着記事

»もっと見る