Wedge REPORT

2020年2月20日

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浜崎あゆみは最高4万円で完売

 一方、毎年大晦日に開かれる浜崎あゆみのライブでも、昨年初めてダイナミックプライシングが導入され、チケット収入は例年に比べ5割増しの効果があった。

 従来は座席位置にかかわらず一律9600円であったが、今回はセンターステージに近い座席から、「ティア1」「ティア2」「ティア3」と3段階のエリアを設定。料金をそれぞれ4万~2万円、3万~1万円、1万5000~9600円で変動させた。価格は、販売初日は15分ごと、2日目以降は1日1回というペースでシステムが販売動向から適正価格をはじき出し、担当者がそれを参考に価格を決めることになっていた。

 販売開始と同時に購入が殺到し、ティア1は30分も経たずに完売した。この間、担当者は急きょ3度価格を引き上げ、上限の4万円に達した。ティア2も同様に1時間以内に高値で完売した。

 「ティア1とティア2が即座に完売したのは想定内といえば想定内だが、正直、初めての取り組みなので安堵感は大きかった」とライブを主催したエイベックス・エンタテインメントチケットセールスグループの漆畑光裕ゼネラルマネージャーは心境を吐露する。システムは過去の販売動向と、ファンクラブ会員の属性を基に4万円を超える推奨価格をはじき出したが、「最終的に上限価格を定めたのは、交通費や宿泊費、グッズ購入といったファンの総支出額も加味し、浜崎あゆみ本人の意見も聞いて判断した」という。

 浜崎あゆみのライブはファンクラブを対象という特定の顧客をターゲットにして価格設定できたのに加え、ヤフーの音楽フェスより豊富な消費行動データが蓄積されていたため、効果的な販売戦略を取ることができたようだ。それでもファンからは、「抽選で手に入らなかったけど、数年ぶりに買うことができた」「後方の席ばっかりだったけど、前の方で観られてよかった」といったダイナミックプライシングを歓迎する声がある反面、「先着順だったので、買えなかった」「金額が上がり過ぎて買えなかった」という声も出た。「ファンの心が離れない上限価格の設定は難しい判断」(漆畑氏)とまだまだ迷いは多い。

 ダイナミックプライシングは、商品やサービスの価格を、需要と供給に基づいて変動させる仕組みだ。もっとも繁忙期に航空券やホテルの宿泊費が高くなるといったような価格変動はこれまでもあった。近年は購買履歴の取得が容易になり、誰がいつどの価格帯で消費したかが分かるようになったり、キャッシュレス決済の普及で端数価格でも消費者の抵抗が少なくなったりしたことから、これまで以上に機動的な価格変動が注目されている。しかし、ダイナミックプライシング導入の環境は整ってきたものの、いざ導入しようとすると、最適な値付けに頭を悩ます企業の姿が見えてきた。

 Wedge3月号の特集「AI値付け」の罠では、ダイナミックプライシングを導入した小売りや航空業界、シェアリングサービスの現状と課題をレポートした。どの企業もAIに値付けの全てを頼ることの技術的な壁や、顧客心理をどう読み解くかといった悩みを見せる。収益拡大や在庫処分など企業の狙いは様々だが、消費者が納得する変動価格の運用はまだまだ道半ばのようだ。

現在発売中のWedge3月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■「AI値付け」の罠  ダイナミックプライシング最前線
Part 1  需給に応じて価格を変動 AIは顧客心理を読み解けるか
Part 2      価格のバロメーター機能を損なえば市場経済の「自殺行為」になりかねない
Column   ビッグデータ大国の中国で企業が価格変動に過敏な理由
Part 3    「泥沼化する価格競争から抜け出す 「高くても売れる」ブランド戦略
Part 4     データに基づく価格変動が社会の非効率を解消する

  
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◆Wedge2020年3月号より

 

 

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