2024年12月23日(月)

さよなら「貧農史観」

2012年5月17日

アジアをはじめ世界の観光客からも熱い期待を浴びる日本の風土・文化だが、
農水省や農協など農業関係者の政策は、戦略に欠けた「農村政策」ばかり。
顧客本位の視点に切り替え、潜在的可能性に満ちた日本のグリーンツーリズムを活性化せよ。

 日本政府観光局によれば、震災前の2010年のデータでは、訪日者の総数は約861万人で、韓国が約243万人でトップ。次いで中国が約141万人で、09年まで第2位だった台湾(約127万人)を抜いている。

 観光目的で入国した人だけでも約636万人に達する。中でも韓国人観光客は約196万人で対前年比の伸び率が70.1%に対し、中国からの観光客数(約83万人)は72.7%と高い伸び率を示している。ビザ発行条件の緩和だけでなく成長する中国の勢いゆえである。さらに、09年はインフルエンザや経済危機があったために韓国、台湾からの観光客が大きく減少したが、その年も中国だけは前年よりも観光客数が増えている。震災後においても中国だけは昨年の11月段階で前年比34.8%増と他国に先んじて勢いを増している。

 さらに、国際観光振興機構が訪日の動機を聞いた調査報告によると、「日本の食事」が第1位で、次いで「ショッピング」「温泉」「自然景観、田園風景」「伝統的な景観、旧跡」の順になっている。「大都市の景観、大都市の夜景」や「繁華街の見物」より上位にあり、日本の“地方”の風土に対する関心が高まっていることが見て取れる。とりわけアジアからの観光客は「日本の食事」とともに「温泉」への関心が高いという。

 北京や上海などの大都市は、かつての日本がそうであったようなスモッグに覆われている。一方、乾燥した風土が多い中国の農村部の人々であればこそ日本のみずみずしく緑なす風土に憧れるのではないか。日本のすぐ隣に世界最高の顧客たちがいるのである。

戦略なきグリーンツーリズム

 しかし、我が国の農業・農村は海外からツーリストを呼び込む以前に、国内消費者向けですら頓珍漢な失敗を続けている。農林水産省はグリーンツーリズムを定着させようとして、1990年代から各地に沢山の補助金をつぎ込んできた。「農村・都市交流促進」の名のもとで農家民宿、農家レストラン、農村体験施設、あるいは直売所などを補助してきたが、現実はリピーターも少なく、さらには億を超える補助金を使った農村体験施設(例えば味噌作り体験館)などでは月に数回だけ開館するような開店休業状態のものがほとんどである。

 農水省あるいは農業関係者が考えるのは「農村政策」であり、「事業開発」ではない。農業・農村の風土や文化、歴史の知恵を受け継ぐ人々を「経営資源」とした産業を興すための明確な戦略(産業政策)が無いのだ。


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