2024年4月27日(土)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2020年3月22日

李登輝と蔡英文の共通点

 その後、再び政権交代で総統となった民進党の蔡英文は当初から「92コンセンサスの存在を認めない」と主張し続けてきた。2012年の政権発足以来、中国が蔡政権にかける圧力はひとえに「92コンセンサス」を認めよ、受け入れよ、というものだ。つまり、台湾は「一つの中国」の枠組みのなかに存在することを迫るものだ。

 李登輝と蔡英文の共通点がここにある。李登輝は、中国大陸は中華人民共和国が有効的に支配しているが、そのかわり台湾は中華民国が有効的に統治していることを主張した。この時点では「中華人民共和国vs中華民国」の関係だが、李登輝は、中華民国が「いつかは大陸を取り戻す」という主張を止めさせた。これにより「中国」という鎹(かすがい)によって繋がっていた中華民国と中華人民共和国の関係を断ち切ったのである。

 蔡英文も、基本的にはこの立場を踏襲している。中国の画策で毎月のように国交断絶があろうと、中国からの観光客数が激減しようと、それでもなお92コンセンサスを受け入れないのは、あくまでも台湾は「中国という枠組み」の外にあるという立場を堅持しているからにほかならない。

中国と台湾、永遠の別離のはじまり

 今般、92コンセンサスの見直しに言及した江啓臣が国民党主席に就任した。92コンセンサスは、国民党の正式名称「中国国民党」が示すとおり、台湾を「中国」の枠組みのなかに置くものだ。「中国」が国民党のレゾンデートルともいえるだろう。

 しかし、1月の総統選挙で国民党が大敗したように、もはや台湾の有権者の心のなかに「中国」はほとんど存在していない。中国との経済関係緊密化や、交流拡大には賛成しても、中国との統一を希望する台湾人の数は、昨年12月の時点で「すみやかに統一」「どちらかというと統一」の割合を合わせても9%弱だ(政治大学選挙研究中心)。

 江主席の「どう見直していくか」の方向性は不透明だが、仮に国民党が「92コンセンサス」を時代遅れのものとして「依拠しない」方向に舵を切れば、いよいよ国民党の「台湾化」が始まることになるだろう。そして、それは中国がどんなに台湾に執着しようとも、中国と台湾の永遠の別離になる可能性をはらんでいる。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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