人材こそ最大の財産。日本の企業は人材教育に多大の「知恵」と「時間」をつぎ込んできた。その一環として研修がある。研修とは能力を引き出す人材育成の場であり、企業文化が色濃く反映される伝承の場でもある。企業ごとに繰り広げられる研修の中身を紹介し、その根幹にある考え方を探っていく。連載スタートにあたり企業研修とは何か、その意義について人事歴30年に及ぶ中澤二朗・新日鉄ソリューションズ人事部部長に聞いた。
企業は人 研修で人を育てる
その中に“自明の罠”が潜む
――企業研修に対して、やらされている感を抱く社員も多いのではないでしょうか。導入研修のような業務に直結するものは真剣に取り組みますが、それ以外の研修には時間の無駄、と思えるものも少なくないからです。そもそも論になりますが、企業研修の意義とは何か、考え方を聞かせてください。
中澤氏:研修の意義を研修担当者に問えば、何と答えるでしょうか。そんなことを聞かないでくれ、というのが圧倒的だと思いますよ。なぜならば“自明”だから、わかりきったことだからです。
企業は人で成り立っています。人を育てなければ企業の成長はあり得ません。社員を育てるためには研修を通して業務遂行に必要な知識を学び、厳しい競争に勝ち抜く方策を身に付けてもらう必要があります。それは人事だけでなく、研修を受ける側の社員も自覚していることでしょう。だから“自明”のこととしか言いようがありません。それをあえて質問される意図が他にもあるのではないですか。何故、意義を問うのか、もう少し趣旨を説明してください。
――グローバル化の進展、多様化、ダイバーシティへの対応など時代の潮流は大きな変化を見せ始めています。昨年の3・11は、すべてのことに対して根底から再度の見直しをしていくべきとの機運をもたらしています。このような状況下にあって企業研修がいつまでも伝統的なスタイルを踏襲していていいのか、一度立ち止まって、自らの立ち位置を振り返ってみる必要性があるのではないか、という素朴な疑問を感じたからです。おっしゃるように“自明”だとしても、本当にそうなのか、人を育てることは表面的なのか、もっと奥深いものなのではないだろうか。やはり意義は何かと問い直したいですね。
人事部部長 中澤二朗 氏
中澤氏:企業が実施する研修は、永年かけて作り上げてきたものです。その意義は明らかですが、それに安住してしまう姿勢のなかに、また、何も疑問を抱かずにいる姿に対して研修の意義を問われているということですね。ご指摘の疑問に対する私流の表現で言えば、わかりきっている中に“罠”があるということだと思います。
目的達成の手段だけに固執し、成果をできるだけ多くとろうとする、行き過ぎた姿勢に問題がある。永年にわたり築き上げてきた人材育成の仕組みは、もっと人間味のあるもので、人の能力を引き上げる根本的なことです。それを忘れ、もしくは知らずに研修を実施していることが“罠”という表現になるのです。つまり“自明の罠”です。誰かが意図的に仕掛けたものという意味ではありません。