2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年4月16日

ヒゲダンスを模倣した韓国の芸人が「国民的スター」に

 私が「ヒゲダンス」を見て驚いた理由はそれが韓国で1980年に「パントマイム」という名でTVショーに登場し爆発的な人気を誇ったそれと、全くと言っていいほど同じものだったからだ。つまり、私の驚きは「私が子どもの頃、熱狂したあのお笑いは日本のものをそのまま模倣したものだったのか」という失望でもあったのだ。

 1980年、韓国のTVショーに登場した「パントマイム」は、スーツを着た男性二人が繰り広げる無言劇で、演技中に流れる音楽が異なっているという点を除けば「ヒゲダンス」と瓜二つだ。このコーナーは韓国で爆発的な人気となり、「パントマイム」を演じた二人のうちの一人、李周逸(イ・ジュイル1940-2002)は、ここでの人気を足がかりに韓国において一躍「コメディの皇帝」と呼ばれる国民的スターにまで駆け上がった。小学生時代の私自身もご多分に漏れず「パントマイム」を見ては腹を抱えて笑っていた子供の一人だった。

 韓国の国民的スターの誕生のきっかけが、あの子供の頃に大好きだった番組が、日本のそれをそのまま剽窃したものだったとは、とガッカリせずにはいられなかった。そして私は「パントマイム」というコーナーを放映していた韓国のTVショーの番組名『土曜日だ! 全員出発』もドリフターズの『8時だョ! 全員集合』をそのままパクったものだと気づいたときにもう一度その失望感を味わうことになった。

 韓国人でも日韓両国のTVコンテンツを良く知っている人であれば、韓国のTV番組が日本の影響を大きく受けていることを否定する人は居ないだろう。70-80年代には「ネタに困ったら、釜山に行け」という言い回しは放送局関係者たちの間だけではなく、一般人の間でもよく知られたものだった。

 朝鮮半島の東南端に位置する釜山は日本の福岡から直線距離で約200㎞の距離にある。完全にとは言えないが一応日本の電波が 届く、つまり日本のテレビが見られる、ラジオが聞ける地域だ。「ネタに困ったら、釜山に行け」という言葉は「釜山に行って日本のテレビを見て参考にして来い」という意味だ。

 今ではインターネットが十分に普及しているからわざわざ釜山まで出向く人はいないが、高速インターネットがまだ普及していなかった2000年代初までは、東京で放送される日本のバラエティー番組をビデオで録画して韓国にいる放送関係者に送る「アルバイト」をしていた韓国人留学生もいた。韓国は認めようとしないかもしれないが、それだけ日本のテレビ番組は韓国にとって一つの「手本」になっていた。


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