東地中海の資源覇権争い
リビアでは2011年、カダフィ大佐の独裁政権が「アラブの春」の混乱の中、北大西洋条約機構(NATO)軍に支援された反政府勢力に打倒されて内戦がぼっ発。シラージュ暫定政府、LNAなど4派が入り乱れる紛争に発展し、以来10年近くも戦火が絶えない。
現在は暫定政府がトリポリ一帯を、その他の地域をハフタル将軍のLNAが支配。世界10位の埋蔵量を誇る石油資源地帯や石油施設は将軍のコントロール下にある。内戦と言っても、これほど外国勢力が介入している紛争もない。内戦に名を借りた各国の代理戦争の感がある。
国連の主導で発足したシラージュ暫定政府には地域大国のトルコとペルシャ湾のカタール、ドイツ、イタリアの欧州勢が支持しているが、実際には軍事力をトルコが、財政援助をカタールが担っている。一方のLNAには、ロシアとアラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、サウジアラビア、イスラエルなどの中東諸国の他、フランス、ギリシャなどが支持している。
LNAには、軍事面ではロシアが傭兵部隊を送り込み、UAEがドローン部隊を派遣、財政面ではUAEとサウジアラビアが支えている。隣国のエジプトはハフタル将軍が将来、同国のシシ政権のような軍事独裁政権を目指していることもあり、軍事訓練や施設などを提供、イスラエルは兵器を供与している。
各国はそれぞれ、将来的にリビアのエネルギー資源の利権に影響力を行使したいとの思惑があるが、とりわけトルコには東地中海の天然ガス開発をめぐる覇権争いが大きく関わっている。同海域には巨大なガス田の埋蔵が確認されており、イスラエル、エジプト、ギリシャ、キプロスが開発に協調体制を組んでいる。こうした中で、トルコだけが外された格好になっている。
このためトルコのエルドアン大統領は昨年11月、この4カ国連合に楔を打ち込むべく、リビアの暫定政府と2つの協定を結んだ。1つは海洋水域画定協定だ。これによってトルコは自国の水域を拡大することになり、4カ国のガス開発とパイプライン敷設を「水域の侵害」と主張できるようになった。2つ目は双方が水域画定協定を結ぶことと引き換えに、トルコが暫定政府に軍事的な援助を行うという安保協定だ。