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2020年5月30日

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結城康博 (ゆうき・やすひろ)

淑徳大学総合福祉学部教授

淑徳大学総合福祉学部教授。政治学博士。社会福祉士・介護福祉士・ケアマネジャーの資格を持ち、地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所での勤務経験をもつ。専門は介護と医療を中心とした社会保障政策。著書に『介護職がいなくなる: ケアの現場で何が起きているのか』(岩波ブックレット)など多数。

 新型コロナ問題において緊急事態宣言が解除され、収束の道筋を描き始めている社会ではあるが、介護現場の苦悩は続いている。国も第2次補正予算により支援を図っているものの、最重要課題となっている介護職員の「確保」と「定着」への処方箋には至っていない。筆者が5月半ば在宅介護従事者に対して実施した緊急アンケート調査を基にコロナ禍の介護にまつわる課題を検証してみたい。

(byryo / gettyimages)

 調査結果では、最優先すべき介護施策として、「介護スタッフなどの特別支給の助成金」「介護報酬アップ」といった回答が多かった。

在宅介護事業者が求める最優先すべき介護施策は介護報酬に関することが半数近くだ

 そもそも介護保険は社会保険制度を媒介に民間事業所などによって「市場経済」で運営されている。とはいえ、介護事業の収入は公定価格である介護報酬で決まっているため、単に人材不足だからと賃金を引き上げるなどの待遇改善は難しい。平時でさえも賃金水準に見合わない労働実態であっても、容易に賃上げができず、今回の新型コロナ問題によってさらに人手不足が深刻化した。

 調査結果の自由意見においても、「安い報酬で感染リスクの不安を感じながら、働かせるのはおかしい」「訪問介護のヘルパー人材不足に取り組んでこなかったツケが、今出ていると感じる」「コロナ収束までは、使命感から仕事を続ける介護職もいるが、収束後も介護の仕事をしようと思う人は減り、コロナで営業を継続できない事業所の閉鎖は増える」といった、新型コロナという非常事態が人材不足を加速化させていることが分かる。

 政府は今回の第2次補正予算で、全ての介護系スタッフに、「慰労金」として一律5万円を支給することを決めた。確かに、医療従事者への財源措置や診療報酬アップと比較して、介護分野への財政出動は少ないかもしれない。しかし、第1次補正予算ではクラスターなどが生じた介護事業所のみにしか給付されなかったのに対し、第2次補正では一律給付となったことは高く評価したい。感染者を発生させない日々の介護スタッフらの業務は、かなりの負担を強いられ重労働であった。

 調査結果の意見でも、「さらに介護離職が拡大しております。医療関係者だけでなく、介護関係者にも手当をお願い致します」「人手不足の中、緊急事態宣言が発出されても、感染の恐怖を感じなから通常通り在宅サービスを実施しています。介護報酬の引き上げをお願いしたい。医療と同じように、在宅サービスも命を守る職種です」「医療従事者だけでなく、介護従事者にもスポットを当てて、処遇改善を検討していただきたい」といった意見が多数寄せられた。つまり、現行の社会保険制度に基づいた「市場経済」による介護事業収入では、人手を確保・継続させるには限界がある。緊急事態宣言が解除されても、ワクチンや特効薬の開発がない限り、真の意味での「収束」とはならず、厳しい環境下での介護サービスは必要とされる。介護業界を継続させるためには、新たな人材を参入させなければならず、そのためには大幅な介護報酬アップが不可避であり、介護事業所の収入を増やしていく必要がある。継続した財政出動が求められる。

 飲食業を中心とした休業補償や中小企業の助成金は一過性のものである。これらは収束していけば、時間はかかるにしろ、「市場経済」に基づいて一定の収入を得ることができるであろう。一方、医療や介護分野は依然としてマンパワーの確保は難しく「公共財」としての側面が強くなっていると言えるであろう。

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