5月1日からの営業再開
結局4月いっぱい、7週間くらい休業した。若干、感染率が下り坂になってきた5月1日から、再びテイクアウトの営業を再開した。
「さすがにいつまでも休んでもいられなかったので。一番の理由は、やはり家賃のことでした」
ビル・デブラシオ市長、アンドリュー・クオモ知事らは、家賃の停滞を理由の立ち退き要求はできないようにするなど、精一杯の対策はとった。だがさすがに家賃免除は、難しかった。
「まったく営業できなかった4月だけでも、家主に免除の考慮をしてもらえるよう弁護士を通して交渉してみたけれど、結局はならなかったですね」
現在ニューヨーク州では、COVID‐19の影響で失業した住民たちに、従来の失業保険に加えて週600ドルの援助金を補償している。「ZAWA」でも10人いた従業員を一時的に解雇して個々に援助金を申請してもらい、現在は吉沢さんと奥さんの理恵さん、そしてもう一人の寿司職人と3人のみでテイクアウトの営業を続けている。
とりあえず急場をしのぐため、国が提供する低金利のローンも組んだ。
「お得意さんの一人が、経済的援助を申し出てくれたこともありました。でも個人に大きな負担をかけることに抵抗があり、辞退したんです」
そこで理恵さんが「GoFundMe」という、クラウドファンディングのようにオンラインで募金できる口座を設置した。目標額は3万ドルにしたが、現在はまだ10分の1弱にしか達していない。ニューヨークでは、COVID‐19の影響で経済的な打撃を受けていない人の方が、少ないだろう。
「もっと大々的に宣伝すれば、効果があるかもしれませんが…。でも営業再開を電話で知らせたお得意さんは、全員来てくれました」
以前はたまにしか顔を出さなかった顧客の中にも、定期的にテイクアウトの注文を入れてくれる人もいるという。
「好きなものを食べてもらいたい」
営業再開して2週目くらいから、注文の数も増えてきた。だが流れに乗ってきたところで、ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が警官に殺害されたことに対する抗議デモが発生。その影響で、ニューヨーク市内は夜8時以降の外出禁止令が出て、注文もぱったり途絶えた。
「先週は最悪でしたね。これから良くなってくれたらと思うんですけれど…」
もう一つの懸念は、季節的なことだ。毎年、6月半ばから夏にかけてビジネスが落ちるという。裕福な階層がバケーションで旅行に出てしまうためだ。だが今年は、飛行機で長距離の旅行に出る人々はかなり限られているだろう。
「今年は特別なので、バケーションといってもみんな行けない。みんなシティにいてもらいたいな、という気持ちはあります」
子供の頃から夢だった寿司職人になって、吉沢さんが仕事の上で一番大事にしているのはどんなことなのか。
「月並みなんですが、お客さんに好きなものを食べてもらうこと。ぼく自身、もともとお寿司が大好きだったのは、好きなものが食べられるから。その意味では、ぼくのおまかせは、おまかせではないかもしれない」
ニューヨーカーの中には、日本の昔堅気の寿司職人だったら、塩をまいて追い払われるようなお客もいる。筆者がある日カウンターで食べていたとき、隣に座った若いアメリカ人の女性たちは目の前で握ってもらった寿司からシャリを押しのけ、刺身だけ食べていた。
それでも吉沢さんは嫌な顔一つせず、「SushiよりSashimiのほうがいいですか?」と聞いていた。中には、鮭とマグロばかり食べるお客もいる。
「この人たちは、本当にこれが好きだから。好きなもの食べたいのは当然。喜んでもらえたらそれでいいと思っています」
まだまだ先が見えない中で、美味しい寿司をニューヨーカーたちに提供し続けていきたいという吉沢さん。GoFundMeへの募金は、お店のHPから入っていける。
https://www.zawa-japanese-nyc.com/
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