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2020年8月6日

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近隣に学部重複の公立大
町村への医療人材供給に懸念

 一方、市議会では、旭川大の公立化に対して反対や慎重論が根強い。市議会議員の林祐作氏は、「公立化後の理念や、どのようにして魅力ある大学にしていくのかという明確なプランが見えてこない。ただ公立化しただけでは、ゆくゆくは学生が減っていく。さらに、自治体に配分される交付税も今後は削減されていくことが予想される。いずれ経営難になるのは目に見えている」と指摘する。

 また、旭川大の公立化には、近隣の名寄市も反発している。同市にも「保健福祉学部」を持つ名寄市立大学がある。そのため志願者の〝奪い合い〟になる可能性が高くなる。

 名寄市長の加藤剛士氏は、「旭川大が公立化すれば間違いなく志願者獲得で競合化する。交通の便など地理的には圧倒的に旭川の方が有利だ。大学の救済が公立化の目的だとしたら、それは問題ではないだろうか」と疑問を投げかける。

 名寄市立大は、看護師、保健師の新卒国家試験合格率が3年連続100%と、全国合格率を上回る。保健福祉学部の実習施設として地元の医療機関等とのつながりが強く、そこへの就職率が高い。看護学科の卒業生の約8割が道内で、うち約45%が人口の少ない道北エリアに就職している(18年度)。

 特に、同大学は日本最北の公立大学でもあり、礼文島や猿払村といった、道北の小規模町村にまで継続的に保健師を輩出している。「こうした地域にまで保健師を送れるのは、これまで実習先として関係性を築いてきたからで、他の大学にはなかなか難しいだろう。旭川大が公立化することで名寄市立大学の学生数が減った場合、道北への保健師の供給にも影響が出る可能性がある」と名寄市立大学学長の野村陽子氏は語る。

 私立大学の公立化に向けた議論が争点となっている例は旭川大だけではない。新潟県柏崎市にある新潟産業大学は、学生数の減少で経営難に陥り、14年秋に市に対して公立化を要請した。

公立化の要請に市長がNO
安易な先送りに厳しい目

 その後、市長の櫻井雅浩氏は、同大に対し改革を求めた。柏崎市には他に新潟工科大という私大がある。「8万人の自治体に2つの私立大学を抱え、運営母体法人もそれぞれ存在するのでは効率的ではない」という理由から、学校法人の統合を望んだ。

 また学生確保のために、地域性を生かした学部構成の必要性を提示した。経済学部の設置について、中越地震などの知見を生かした「防災経済学部」など他と違う学部のデザインを提起した。

 だが「大学から出てきたものは、残念ながら説得力が無く、魅力的なものとも思えなかった。何よりも財務状態があまりにも脆弱なのに、公立化すれば全てうまくいく、何とかなる、というものであった」と櫻井氏は評価。18年2月、法人化に舵を切ることは難しいとの判断を示した。

 「公立化で学費が下がって永続的に多くの生徒が集まり、すべてが解決する、という考え方はおかしい。一時的に学生は集まるかもしれないが、大学に独自性がなければ、その流れは続かない。公立化すれば施設整備等の負担が市に降りかかる上、定員割れとなれば交付税措置があったとしても運営費用が不足し、市の財政が痛むことになる。安易な公立化は認められない」と櫻井氏は語る。

 市は、民間の調査会社に公立大学法人化の可能性について調査を委託し、その結果が17年夏に出ているが、「公立化で短期的に経営が好転する可能性は高いが、それは延命策にすぎず、問題の先送りになるだけの可能性がある」、「特徴づくりに向けた体制構築への踏み込みに欠ける」など、厳しいコメントが並んでいる。

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