公立化で生まれる弊害
地元から離れる卒業生
また、公立化時に大学が掲げていた理念に反する結果を生んだケースもある。定員割れに苦しみ、一時期は外国人留学生を多く抱えていた時期もあった長野大学は、このままでは大学の存続が厳しいと判断し、上田市に公立化を要請。17年に公立大学へと移行した。
文部科学省の公表データ「私立大学の公立化に際しての経済上の影響分析及び公立化効果の『見える化』に関するデータ」によれば、公立化初年度には募集人員300人のところ、志願者が3000人ほど集まり、志願倍率は10倍となった。その後、志願倍率は徐々に落ち着いてきているものの、昨年度も6.3倍となっている。
その一方で、地域内入学者率は公立化前年の13.4%から昨年度には5.8%と大きく減少している。長野大学は、「公立大学法人として地域の若者が入学しやすい、入学したくなる仕組みをつくる」としているが、公立化によって逆に地域外からの入学者が増えることになった。
同大学学長の中村英三氏は、「志願者数が増えたことは嬉しいが、受験者が全国に広がり、地元の学生が入りにくくなったことは課題だ。地元の高校からは、『これまではうちの生徒が入学できていたのに、なかなか入学できなくなった』、『現在設定されている定員の地元枠を広げてほしい』といったような声も出ている」と話す。
他にも、私立大学から公立化した静岡文化芸術大学や長岡造形大学などでは、公立化以降、毎年のように地域内就職率が下がり、私立大学時代よりも卒業生の地元離れが進むといった皮肉な結果となっている。特に、静岡文化芸術大学の地域内就職率は、公立化した10年度の73%から、18年度には33.8%まで激減している(前述の文科省データより)。
私立大学の公立化に詳しい、龍谷大学の佐藤龍子教授は「国立大と異なり、公立大の設置についてはノーコントロールになっている。地域の活性化拠点としての大学活用という国の方針ともあいまって、身を切る努力を見せないまま公立化を進めてきた私立大学は多い。学生の卒業後の雇用を地域で確保できるのかなど、公立化の意義と必要性をしっかり議論すべきだ」と警鐘を鳴らす。
経営難の私立大学が息を吹き返し、地元に若者が集まり、街が活性化するといった〝特効薬〟のように見える公立化。しかし、大学の独自性を打ち出し、魅力を高めていかなければ、地方交付税や市税を投入したあげく、再び経営難に陥る危険性が潜んでいる。
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■大学はこんなにいらない
Part 1 日本の研究力向上に必要な大学の「規模」の見直し
Part 2 経営難私大の公立化にみる〝延命策〟の懸念
Part 3 進むのか 国立大学の再編統合
Part 4 動き出した県を越えた再編 まだ見えぬ「効率化」へのビジョン
Part 5 苦しむ私大 3割が定員割れ 延命から撤退への転換を
Column 地方創生狙った「定員厳格化」 皮肉にも中小私大の〝慈雨〟に
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