大統領、2度目の救済
トランプ大統領がストーン氏を救済しようとしたのは今回が初めてではない。
2020年2月、検察がストーン氏に対して禁固7年ー9年を求刑した際、トランプ大統領が横やりを入れた。「恐ろしく不公正。司法の死だ」ー。これを慮った司法省が求刑を軽減することを決めてしまったため、ワシントン連邦地方検事局の検事4人が事件担当を忌避、そのうちひとりは怒りの辞表をたたきつけた。(このいきさつは、2020年2月、当サイトに掲載された『聞いてみたい検察の言い分 政権の介入は万国共通か』に詳しい)。
トランプ氏は、よほどストーン氏に恩義があるのだろう。さもなくば、弱みでも握られているのか。そう勘繰りたくもなろう。
ストーン氏は若き日、ニクソン大統領の選挙チームで活動して以来、レーガン大統領の選挙など一貫してワシントンの政界を〝遊泳〟、
選挙戦では謀略に近い活動に関与していたことが多いといわれ、〝汚い詐欺師〟のニックネームも奉られたこともある。トランプ大統領とも長年、親しい関係にあった。
身内、共和党からも批判
トランプ氏の政敵、民主党のナンシー・ペロシ下院議長は怒り心頭、「このような恥知らずの不正を防ぐために議会は措置を講じる」と強く反発。「大統領の訴追を防ぐ隠ぺい活動に関与した個人に対して恩赦や刑免除を行うことを不可能にする法律が必要だ」とも述べ、具体的な方策を探る考えも示した。
大統領の非をならす声は身内である共和党からもあがっている。
2012年の大統領選を戦い、当時現職のオバマ大統領に敗れ、トランプ政権発足時には国務長官にも名が挙がったミット・ロムニー上院議員。「歴史的な腐敗だ。大統領がまさに自分を守るために偽証した人物の刑を免除するとは・・」とツイッターで野党並みの非難を浴びせた。
ロムニー氏は2月、ウクライナ疑惑でトランプ大統領が弾劾裁判にかけられたさい、共和党からただひとり弾劾に賛成する票を投じた。
過去の大統領も恩赦はしたが……
もっとも、有罪確定者に対して恩赦、刑の減免を行ったのはひとりトランプ大統領だけではない。思惑はそれぞれ異なるにせよ、これまでの大統領の多くが、この権限を行使してきた。
オバマ前大統領は、非暴力的な麻薬犯罪者のうち模範囚ら1700余人に、ブッシュ大統領(父)は、〝敵国〟、イランに密かに武器を売却したスキャンダル、イラン・コントラ事件に関与した当時の国防長官らに恩赦を与え、批判された。
クリントン元大統領は、アーカンソー州知事時代に関与したのではないかといわれた土地ころがし疑惑、ホワイトウォーター事件で服役中の友人らを減刑。これとは全く別に、違法薬物事件に関与、服役していた実弟にも恩赦を与えた。
オバマ氏が、麻薬犯罪者多数を放免したのは、シカゴで人権派弁護士として活躍していた前大統領らしいし、クリントン氏が友人、身内を赦免したのも、年若いホワイトハウス実習生との〝不適切な関係〟をもって、それが原因で弾劾裁判にかけられたクリントン氏に似つかわしい〝不適切さ〟といえるだろう。
しかし、こうした過去の大統領の行動は国民の眉を顰めさせたかもしれないが、いずれも私的な犯罪だ。大統領自身に有利になるように、選挙で相手陣営の動向を不正に探ったり、外国情報機関と接触する重大犯罪を犯した人物の刑を免除するのとは事の本質がことなる。
大統領のために選挙で違法行為を働いた人物を大統領自身が恩赦をあたえるのはとうてい公平とは言えない。不正を行っても刑務所行を免れるという誤解を与え、違法行為を助長することにもつながりかねない。
トランプ氏はこれまで36件の恩赦、刑の減免を行っているが、ほとんどが政治的な事件や個人的な利害関係がまらむ事件だったという指摘もある。