中東を読み解く

2020年8月15日

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中東地図塗り替えるイラン包囲網

 トランプ政権のもう1つの狙いは中東における最大の懸案であるイランへの包囲網を敷くことだった。トランプ大統領は発表の際、「再選されれば、30日以内に(イランの核開発を抑止させる)新しい合意をまとめる」と意欲を見せたが、「そのためにもイランをより孤立させる包囲網が必要だった」(専門家)。それがイランの宿敵であるイスラエルとUAEを正常化させた理由の1つだ。この結果、中東の政治地図は大きく塗り替えられることになる。

 イスラエルは長年、アラブ諸国との関係改善を目指し、オマーン、UAE、サウジアラビア、バーレーンなどと水面下での接触を強めてきた。その秘密工作を担ったのが情報機関モサドのコーエン長官だった。その工作が実り、ネタニヤフ首相は2018年にオマーンを訪問した。

 UAEもイスラエルの閣僚や運動選手の訪問を非公式に受け入れ、今年に予定されていた「ドバイExpo」への招待状も出した。このイベントはコロナ禍で来年に延期されたが、両国の関係改善は始まっていた。バーレーンも米国の新和平提案を支援する国際会議を開催し、イスラエルとの正常化を模索している。

 今回の合意の背景として、忘れてはならないのはペルシャ湾を挟んでイランと敵対するアラブの大国サウジアラビアの動きだろう。サウジアラビアを牛耳っているムハンマド・サルマン皇太子はムハンマド・アブダビ皇太子とは極めて親しい仲だ。クシュナー氏は本当なら、サウジアラビアにイスラエルとの国交を開いてほしいところだろうが、サウジ国内には依然、ユダヤ人を敵視する保守派の勢力が根強くあり、ムハンマド・サルマン皇太子の力をもってしても一気には進めない。

 このため、ムハンマド・サルマン皇太子としては、まずUAEに先鞭を切らせて国内外の評価を見極めたいという思惑だろう。より重要なことはイランがどう反応するのかを確かめることだ。イランの軍事的脅威は今年初めのイラク駐留米軍へのミサイル攻撃で十分に思い知らされている。

昨年9月には石油施設2カ所がドローン攻撃で大きな被害を受けたが、サウジアラビアはイランの犯行としている。イスラエルとの関係正常化に積極的になり、「イランを刺激すれば、報復される恐れがある」(アナリスト)ことから慎重にならざるを得ない。「UAEを使って試させてみる」(同)というのが同皇太子の本音なのではないか。

 今回の合意により、コロナ禍で窮地に陥っていたネタニヤフ首相はアラブとの新時代を切り開いたとして当面、政治危機を凌ぎ、UAEにしてもイスラエルとの関係正常化により国際的な評価はプラスだ。トランプ大統領は今後の選挙戦で、外交的成果として大きく宣伝するだろう。はしゃぐ3者に対し、敗者は1人、パレスチナ人のように見える。だが、敗者が存在する限り、中東和平の実現はないことを知るべきだ。

  
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