2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2012年7月23日

 このようなリスクに備えるためにはエネルギー安全保障や安定供給のための基盤づくりが不可欠である。震災を経て、原子力発電所をはじめとするエネルギー施設の安全性が全てに優先されるべきことが確認された。安全性が確認されていない、担保されない発電所は運転すべきではない。一方で、エネルギーの安定供給の途絶は我々の生活や生命の維持を脅かすものであり、暮らしの安全に通ずる概念であることも確かである。

安全と安定供給の
両立が不可欠

 暮らしの安全や安心に通ずる安定供給の確保には一定のコストがかかる。有事に備える設備の維持にも、資源の備蓄にも多大な費用を要する。これまでの電力供給構造においては安定供給に係る施策やコストが許容されたが、仮に電力市場を完全に自由化するとなればそれが難しくなる面もある。

 大切なのは持たざる国としてエネルギー安定供給のため施策や仕組みを確実に維持することであり、そのためには一定のコストを何らかの形で需要家が負担する必要がある。

 国民的議論に供されたエネルギーミックスの選択肢としては電源選択に限定した電力量(kWh)が示されているが、今後はどれだけの設備(設備容量、kW)が必要かという議論を進めねばならない。kWhの確保には様々な環境変化や自然災害などに対応しながら設備を健全に維持し、稼働に必要な燃料を海外から確実に調達することが前提となる。

 コスト等検証委員会で試算されている発電コストは、ゼロから発電所を構築・運転することを前提に計算されたものであり、その比較だけで電源構成を議論することには大きな意味はない。

 震災後の電力供給危機の中、石油火力が大活躍している状況をみると、価格が高騰・高止まりする中で稼働率が極端に低下していた石油火力に一定の役割を与えて設備を維持してきたことがどれだけ大切だったかよくわかる。天然ガス火力にしても、石炭火力にしても、震災後はどの発電所もフル稼働に近く、震災前は過剰との指摘もあったそれぞれの存在意義を改めて見直すべきだ。

 発電所の新設は難しい。現存設備に対し、そのビンテージ(設備寿命)を考慮して、そこからの積み増しあるいは除却で今後の設備量を論じることが不可欠である。発電設備や用地といったハードウェアのみならず、電源立地地域との関係や設備の維持管理のための人材といったソフトウェアも大切にしていくべきだ。

 電力システム改革の議論を踏まえ発送電分離が実現すると、低稼働の設備や人材を維持・確保することが困難になる。ピーク電力が高値で取引されるような仕組みへの期待が大きい一方で、低稼働の事業リスクを軽減するための施策が求められる。国家戦略上維持する設備については、何らかの買取制度やいわゆるテイク・オア・ペイ(一定額の引取下限を定めた契約)のような、安定供給を促す仕組みを構築する必要がある。

 次のページに30年に至るエネルギー供給構造のシミュレーション結果を示す。


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