2024年12月3日(火)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2020年9月24日

KISEKIの従業員の皆さん

 ルワンダで何が起こったのか?パート①『ルワンダで何が起こったのか?』では「絶対給料は減らさないし誰も解雇しないから」と涙をこらえてルワンダ人シングルママ達に伝えるまでの美緒さんの葛藤を書いた。

 そしてパート②『zoomでつながった日本の高校生とルワンダのシングルマザー』ではシングルママたちとのzoom利用のソーシャルネットビジネスの数々を書かせて貰った。そして今回のパート③では山田美緒さんの重大な決断と今後のKISEKI戦略についての報告をさせて戴きたい。

 ルワンダから重大発表をzoom会議で行うとメール連絡があった。

 週末の夜の3時間の会議である。食事を早めに済ませてzoom画面を開けたら開始10分前からKISEKIのサポーターがスタンバイしていた。

美緒さんの重大な発表

 美緒さんはこれまでのKISEKIの活動を約40人のサポーターたちに説明し始めた。日本から参加しているサポーターたちが大半である。美緒さんのサイクリング仲間も居れば、アフリカ旅行に来た時にKISEKIで泊ったバックパッカーもいる。KISEKIのボランティアプログラムに興味をもってアフリカを体験したインターンもいた。つまりKISEKIと縁のあったOBとOGがほとんどであった。ルワンダに住んでいる日本人駐在員たちも集まっているはずだ。

 美緒さんから過去の経緯やサポーターへの感謝の言葉が一通り終わってからいよいよ「重大発表」の時間となった。美緒さんは深呼吸をしてこのように切り出した。

 「9月26日をもってレストランとホテル経営を一旦終了いたします」

 よほど考えて結論を出したようだった。一息入れて感情を抑える様子で「これは決して撤退でも敗北でもありません。新たな戦略で本格的にソーシャルビジネスプログラムに集中したいと思います」と続けた。レストランには閑古鳥が鳴いているし、ボランティアプログラムのインターンたちも帰国してしまった。実は新たなレストラン兼ホテルの代替地も見つかったがリニューアルオープンにはかなりの日数が必要である。

 現在の場所を維持するコストが馬鹿にならないので一旦大家に返却することにしたのである。山田家の自宅にレストランの家具や備品を運び込む日程も説明した。また、引っ越しの26日までの間は従業員のシングルマザーと一緒に自宅でオンラインプログラムは続けていくと発表した。

 40人の応援団たちは知らず知らずに他人事ではなくて一緒にKISEKIと共に闘っているような気になっている。シングルマザーの話を聞いてアメリカの慈善団体からは寄付金や物資が送ってくるが、日本には篤志家が居ても一般的には寄付をするという習慣は希薄で税制優遇などのシステムが見えにくいのでクラウドファンディングや寄付金の取扱い方法が分からない。

 リニューアルオープンまでの計画はロックダウンが解けるまでコスト削減を徹底させて実効のあるソーシャルビジネスに集中する予定だ。中長期に持続可能なプラットホーム創りに戦略を転換する。といった内容であった。日本の多くのサポーター(協力者)がいるからここまで来たのだからさらに活動を広めていきたい、と熱弁を振るったのだ。 

KISEKIの3人のサポーター

 さてzoom会議の翌日に日本に居るKISEKIの強力な助っ人と連絡を取ってみた。まず1人目は日本ボディーケア学院の谷口光利代表。電話で話してから直接大阪で会うことができた。

 今年に入ってからもルワンダと日本の間で毎週のオンライン講義を通じて正式にセラピストのプロを3人も育成したと聞いて驚いた。今年はコロナ禍の為に現地には行けないので、その3人の生徒さんを通じて新規にシングルマザーのセラピストの育成に精を出されているとのことである。美緒さんと谷口先生は偶然同じ大阪の池田市の出身で15年前からの知り合いで美緒さんの熱意に応える形でルワンダにセラピストの養成学校を設立したのである。

 数年前、ケニアでエステシャンの勉強をしていたKISEKIのシングルママの「ベス」が日本の本格的な東洋セラピーを勉強したいと言い出したところから谷口代表が美緒さんに協力してルワンダ進出になったのだ。

 2018年に僕がキガリに出張した時、谷口代表と山田美緒さんが偶然のタイミングでマッサージ(セラピストやエスティシャン)の養成スクールをキガリに立ち上げたばかりであった。だから今回で直接会うのは2回目だったが、2年前よりも精悍なイメージでルワンダのシングルマザーたちが自立できるようにマーサージの講義を継続されていた。

 2人目はベビーシッターのアイデアを美緒さんに提案した「ユッシー」とzoomで話した。ユッシー(中嶋雄士氏)は30歳で、普段はエストニアで日本の進出企業のコンサルをしている若手の起業家である。たまたま去年の9月から12月までの3カ月をルワンダに旅行をした時に美緒さんと知り合ってKISEKIに泊まっていたという。1月に日本に一旦帰国してからもう一度ルワンダに行こうと思ったら新型コロナが流行って行けなくなったとのことだ。

 そこでユッシーの知人の家庭でベビーシッターを探していたので美緒さんに相談したら「渡りに舟」で決まったという。とりあえず5月から8月まで4カ月間の約束でベビーシッタープログラムが始まったが、1カ月使い放題でたった3000円だから日本のお母さんは大喜びだったらしい。「ご飯を作るクッキングスクール」や「歌やダンス」や「ゲームやクイズ遊び」や「日本語と英語の勉強」などやることはいっぱいあった。ルワンダマザー達も楽しみながら報酬が得られるので大喜びだという。彼の行動力とアイデアが生きたケースであるが、僕からユッシーにクラウドファンディングの仕組みを作ることをアドバイスしたら同じく喜んでいた。彼は行動力のあるアイデアマンだから今後の活躍が楽しみだ。

 3人目はルワンダで活躍しているアーティストの鈴木掌(つかさ)さんだ。鈴木さんは海外青年協力隊の出身。日本外務省NGO連携無償資金協力事業(2011年~2015年)で日本のミシンを持ち込んで5年間で200人以上の若者を指導した実績がある。

 また今はルワンダで才能のある子供たちにボランティアで絵を教えているアーティストである。ルワンダのコーヒーペイントのジャンルを創設してコーヒー色のペインティングで楽しい絵を描いている。鈴木さんは独自の色彩感覚を用いて、枠に捉われない多様な手法で描き表現するアーティストである。絵画だけにとどまらず、空間を意識して音楽や書などにも積極的にコラボを行う。様々なパフォーマンスを繰り広げるニュータイプのアートクリエーターであり、アトミックジャングルというアートブランドを立ち上げ、踊り手、歌い手、空間デザイナー、活動家としても主にルワンダで幅広く活動中だ。

 ルワンダで、美緒さんと一緒にSUPAホテル(温泉)を立ち上げるプロジェクトを進めているという。アーティスト活動を通じて得た資金は、青年海外協力隊を経て関わることになったアフリカの地"ルワンダ"で人材育成だけではなく全く新しいエンターテイメントをクリエイトする活動に生かされている。KISEKIとのコラボは今から爆発するだろう。      

ジェンダーギャップ指数とは何か?

 ルワンダは世界で女性の議員が一番多い国として有名だ。そのように国会が運営されるようになった理由は後で説明するが世界男女格差指数でルワンダは世界の上位に入っている。世界男女格差指数(ジェンダー・ギャップ指数)は世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年発表する数値のことである。

 数値は国ごとに集計され、各国における男女格差を測るがルワンダは世界の153カ国の中でなんと第6位である。この指数は男女格差についての各種の調査を数値に反映することで、どの国が男女の平等の度合いが高いか低いかといったことが分かるのだ。ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが政治、経済、教育、健康の4分野で毎年発表するのだが、ルワンダには女性の社会進出をサポートする制度がある。

 ルワンダの国会の女性議員は60%以上と男性議員よりも多いのだ。議席の3分の1を女性にするクオーター制度をカガメ大統領が決めたのは、25年前のジェノサイドで多くの男性が殺されたことも影響している。しかし個人的な感覚でいえばルワンダの男性が女性に比べて頼りないという見方もできる。ルワンダに限ったことではないが男性は仕事にも責任感がないし、家庭を守る義務感も欠如していると感じることがある。シングルマザーが多いのも、逆に男性が家庭を見捨てても女性が子供に対して責任感を果たすことと関係があるのかもしれない。

 女性が男女格差の問題を日本がルワンダと比較すること自体微妙な問題なのだが世界経済フォーラムは客観性のある調査方法をとっているので事実は事実である。

 そんなことから日本のジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)を調べた。

 結果は153カ国の中で121位である。(ルワンダは世界6位)。2018年の日本は110位だったが2019年は153カ国中121位に落ちた。残念なことに日本の指数が極めて低いことであるが経済、教育、保健、政治の4分野の中で、日本が後れを取っているのが、特に経済分野と政治分野である。

 経済分野の小項目の評価を見ると、「管理職ポジションに就いている男女の人数の差」が131位で世界平均よりも低く、政治分野の小項目の評価では、「国会議員の男女比」135位、「女性閣僚の比率」139位、「過去50年の女性首相の在任期間」73位と、世界平均を大きく下回っている。日本社会では意思決定への参画やリーダー層の男女比において女性の存在が際立って低いのである。経済や政治分野における女性の参画を増やすには、経済や政治分野で女性が活躍する環境や制度を整えること、女性リーダーを周りが支援すること、そして、女の子や女性がリーダーになるという主体性をもつことの3つが重要だ。

 日本が特に弱いのは、「男女の所得格差」「閣僚の女性比率」「国家議員の女性比率」「議員・政府高官・企業幹部の女性比率」である。本件は根が深い問題であるが単に日本の多様性の欠如だけの問題ではないという気もしている。ジェンダー・ギャップ指数については別の機会に深堀してみたい。


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