2024年11月25日(月)

WEDGE REPORT

2020年10月29日

 一つ目は、ハッキングやウイルス感染などのサイバー攻撃により、政府や軍、企業、重要インフラなどに障害を起こしたり、大きな国際イベントを混乱させたりする事態である。サイバーテロもこれに含まれる。

 サイバー攻撃はもともと、個人や企業の情報や金銭を盗んだり改ざんしたりする、といった犯罪行為が多かった。日本で20年の夏に発覚、問題化したNTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を悪用した銀行預金の不正引き出し事件も、この一例だ。

 攻撃はさらに、インフラ施設を混乱させる行為や、それをめぐる脅迫などによって、政治的圧力を行使する手段にも発展している。

 二つ目は、中長期的な時間軸で、世論に影響を与えたり、選挙戦に介入したりして、「誘導工作」を図るものだ。少し前までは、文字や画像の悪用や改ざんが中心だったが、前述のように、この1~2年、動画の「ディープフェイク」も席巻している。

 今、世界では、この二つのタイプがからみ合い、様々な「工作」や「操作」が刻々と行われている。

知らぬ間に進む世論操作
「情報」めぐる欧露の攻防

 世論はどのように誘導されるのか。そして、その目的は何か。

 2016年の前回米大統領選に対するロシアの介入が一つの典型である。

 ロシアは、ドナルド・トランプ候補(共和党)に肩入れし、対露強硬派だったヒラリー・クリントン候補(民主党)をおとしめることを狙った。その手口は、大きく分けて二つある。

 第一に、ロシア国内の企業を使い、米国内外のソーシャルメディア上に、トランプ氏に有利になるような虚実取り混ぜた情報をまき散らした。

 第二に、クリントン陣営のスタッフらのメールアカウントをハッキングしたり、民主党全国委員会などのコンピューターネットワークに侵入したりして、何十万件もの文書を不正に入手し、ソーシャルメディアに流出させた。この時は、内部告発サイト「ウィキリークス」も使い、民主党内の機密情報なども暴露した。

 米国のロバート・モラー特別検察官らの捜査により、一連の行為は、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が行ったことが明らかになっている。重要なことは、こうした脅威が当時、米国社会で広く認知されておらず、知らない間に進んでいたということだ。

 これらの世論操作や選挙介入が、米国の有権者に最終的にどう影響したのか、具体的には測りようがない。しかし、大統領選に勝利したトランプ氏はこの4年近く、ロシアに総じて甘く、プーチン大統領とも融和的関係を保っている。何より、トランプ氏は、プーチン氏が望むような国際秩序の不安定化、そして米国内の分断化に、結果的に大きく〝貢献〟してきた。

 ロシアは、14年のウクライナ侵攻以降、欧米から制裁を受けて孤立し、国内経済は停滞している。プーチン政権にとって、西側社会を混乱させ、分裂させて弱めることは、国家の地位と尊厳を保つための主要な戦略目標だともいえる。いわば、「カオス(無秩序)」を目指す戦略である。

 ロシアのこうした動きに対する脅威認識や対応策は、米国よりも、むしろ地理的に直接対峙する欧州の方が進んでいる。「誘導工作」を安全保障上の脅威としてとらえ、北大西洋条約機構(NATO)や、欧州連合(EU)などが対策に力を入れている。


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