2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2020年10月29日

(出所)『ドキュメント 誘導工作』(中央公論新社)を基にウェッジ作成 写真を拡大

 NATOはいくつかの研究所を設け、国際会議開催や報告書発表などの啓発活動に余念がない。また、NATO加盟国ではないが、例えばスウェーデンでは、政府が「情報操作対策ハンドブック」をまとめ、18年の総選挙の前に各自治体で「世論操作の見分け方」の訓練を実施した。すべては、国民のリテラシー向上を目指すものである。

 さて、この11月の米大統領選はどうなっているのか。米欧の様々な機関や報道の指摘からも、ロシアは当然ながら介入を試みていることがわかる。前述の「ディープフェイク」の駆使など、技術的にも高度化している。

 米国に本社を置くIT専門メディアCNETは、「ディープフェイク」の影響力について、「内容そのものよりも、真偽が判別できないディープフェイクの『存在』自体が人々を惑わせる」と指摘する。この惑いが選挙システムの信頼性への疑念を生み、民主主義を揺るがす、という分析は、カオス状態を一段と深めたいロシアの狙いにも合致する。

各国の思惑渦巻く介入工作
日本も脅威認識を高めよ

 米国の情報機関を統括する国家情報長官室(ODNI)は8月、ロシアに加え、主に中国とイランが大統領選への介入工作を継続している、との警告を発表した。ロシアはトランプ氏の勝利を望み、中国とイランはトランプ氏の敗北を期待している、と具体的に指摘する異例の内容である。16年の教訓を踏まえた動きともいえる。

 注目すべきは、ODNIの警告は、ロシアより中国をトップに据えていることだ。「中国は、自国の国益に反し、批判的な言動をする政治関係者に対し、圧力をかけたり誘導したりする『影響努力』を続けている」としている。ロシアやイランの項目と異なり、具体的な手段は詳述していない。

 日本にとって、こうした中国やロシアの動きは他人事ではない。特に、東シナ海での海洋活動などを通じ、政治的な自己主張を強める中国は、目に見える軍事的な動きだけでなく、すぐには感知できない世論操作やサイバー攻撃を本格化させる可能性は十分ある。

 16年の大統領選の最大の教訓は、こうした「誘導工作」という脅威に対する認識が米国内で浸透していなかったことだ。デジタル化を進める日本がまずできることは、この脅威認識を高めることである。冒頭で指摘したように、情報に対するリテラシーを上げるため、国民を啓発する取り組みを本格的に始める時が来たといえる。

Wedge11月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■トランプVSバイデン  戦の後にすべきこと
Chronology  激化する米中の熾烈な覇権争い      
Part 1        21世紀版「朝貢制度」を目論む中国  米国が懸念するシナリオ          
Part 2          激化する米中5G戦争  米国はこうして勝利する   
Part 3          選挙後も米国の政策は不変  世界情勢はここを注視せよ          
Part 4          変数多き米イラン関係  バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1   トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟     
Part 5          加速する保護主義  日本主導で新・世界経済秩序をつくれ
Part 6          民主主義を揺るがす「誘導工作」  脅威への備えを急げ
Part 7          支持者におもねるエネルギー政策  手放しには喜べない現実
Part 8        「新冷戦」の長期化は不可避  前途多難な米国経済復活への道    
Column 2     世界の〝プチ・トランプ〟たち
Part 9        日米関係のさらなる強化へ  日本に求められる3つの視点      

  
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◆Wedge2020年11月号より


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