2024年12月26日(木)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年10月21日

ペンシルベニア州の支持者( REUTERS/AFLO)

 今回のテーマは、「トランプが激戦6州で苦戦する本当の理由」です。2020年米大統領選挙は、前回の選挙で大接戦となった激戦6州(西部アリゾナ州、南部フロリダ州、中西部ミシガン州、南部ノースカロライナ州、東部ペンシルべニア州、中西部ウイスコンシン州)に焦点が当たっています。

 新型コロナウイルス感染から復活した共和党大統領候補のドナルド・トランプ大統領は、主として激戦6州で大規模集会を再開し、精力的に遊説を行っています。ただ、米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス」によれば、激戦6州における各種世論調査の平均支持率は、民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領が3.9ポイントリードしています(20年10月21日時点)。

 なぜトランプ大統領は激戦6州でバイデン前副大統領に苦戦を強いられているのでしょうか。本稿ではその理由を中心に述べます。

人口動態の変化

 トランプ大統領が激戦州でバイデン氏に苦戦している理由の1つに人口動態の変化があります。

 ブルッキングス研究所と米公共ラジオ(NPR)の調査によれば、投票資格がある白人における高卒以下の割合は16年から20年の間に、45%から41%になり4ポイント減少しました。一方、大卒以上の白人有権者は2ポイント増加しました。トランプ大統領の支持基盤は白人の高卒以下なので、基盤が縮小しているといえます。

 州別にみますと14州で投票資格がある白人の高卒以下の人口が減りました。注目すべき点は、14州の中に激戦6州全てが含まれており、バイデン氏のアドバンテージになっていることです。 

激戦6州の失業率

 米労働省雇用統計局が発表した激戦6州における失業率(20年8月)をみますと、5%以下の州はありません。ペンシルべニア州の失業率は10.3%で最も高く、続いてミシガン州の8.7%、フロリダ州の7.4%の順になっています。こちらもバイデン氏に有利に働いています。

 米公共ラジオ、公共放送及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)が行った共同世論調査(20年10月8~13日実施)によれば、ミシガン州のある中西部における支持率はバイデン前副大統領が53%、トランプ大統領が42%で、同前副大統領が11ポイントも上回りました。ミシガン州ではグレッチェン・ホイットマー知事(民主党)が、同州全域に都市封鎖令を出し、極めて厳しい新型コロナ対策をとりました。その結果、経済再開を急ぐトランプ大統領はホイットマー知事に敵意を抱くようになりました。

 ちなみに、同調査では経済政策に対するトランプ大統領の支持率と不支持率は共に48%でした。トランプ氏は新型コロナウイルスから経済に国民の目をそらそうとしています。しかし、経済におけるアドバンテージは完全に消えました。同氏は民主党知事のコロナ対策が経済に悪影響を与え、自分の選挙に不利に働いていると認識しています。

トランプの「選挙監視員」

 激戦6州での逆転を狙うトランプ大統領は自身のツイッターを通じて、選挙で不正が生じないように支持者に対して「選挙監視員」になるように呼びかけました。米大統領選挙では、ボランティアの運動員を含めた各陣営の代表が投票所へ出向き、集計作業を見守ります。

 激戦6州における各種世論調査の平均支持率は、フロリダ州ではバイデン前副大統領がトランプ大統領を1.4ポイント、ミシガン州では6.8ポイント上回っています。トランプ氏はフロリダ州よりもミシガン州でバイデン氏に大きく引き離されています。

 そこで、トランプ大統領は「武装集団のカード」を切りました。武装集団が「選挙監視員」になって、ミシガン州でバイデン氏を支持する黒人、ヒスパニック系及び女性が投票できないように嫌がらせをして、同氏の票を減らす選挙戦略に出ました。トランプ氏の選挙監視員は、本来の監視員とは異なった役割を果たしているのです。

 米公共ラジオ、公共放送及びマリスト大学の共同世論調査では、「大統領選挙で有権者に対する脅しや妨害があると思いますか」という質問に対して、69%が「ある」と回答しました。ミシガン州における武装集団による「選挙妨害」は、同州でのトランプ勝利を遠ざけることは間違いありません。


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