2024年4月20日(土)

中東を読み解く

2021年3月8日

イラン核合意との関連はあるのか

 「フーシ派が攻勢に出ている背景にはやはりイランの意図が働いていると見るべきだ。イランはバイデン政権のイラン核合意復帰をめぐって突っ張り合いの最中だ。バイデン政権が速やかに復帰しなければ、中東やペルシャ湾が一段と不安定になることをフーシ派の攻撃激化で見せつけているのではないか」(ベイルート筋)。

 バイデン政権は核合意への復帰ためイランとの対話を提案したが、復帰の条件として、ウラン濃縮度の上限突破や抜き打ち査察拒否などの合意破りをイラン側が是正することが先決とした上、弾道ミサイル開発の制限、中東地域の武装勢力への支援停止を持ち出している。しかし、イラン側がこれに反発、対話開始には至っていないのが現状だ。

 だが、バイデン政権との角の突合せが持久戦になれば、困るのは経済的な苦境に陥っているイランの方だ。「イラン側はいつまでも待てない。米国の譲歩を勝ち取るための一つの手段として、フーシ派を利用していると考えるのが合理的だ。それに技術力を持たないフーシ派が無人機やミサイルを独自で開発できるわけがない。イラン革命防衛隊が支援している」(同)。

 イエメン戦争はイランとサウジアラビアの代理戦争でもある。イランが支援する同じシーア派に属する反政府フーシ派と、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)が援助するハディ暫定政権が対立、という構図だ。しかし、内情は複雑だ。ハディ暫定政権はサウジの傀儡勢力であるハディ暫定大統領派と、これに反発するUAE支援の「南部暫定評議会」派の寄り合い所帯だ。両派の武力衝突を経て昨年末、新内閣が発足し、フーシ派へ対抗する体制ができたが、再び分裂する可能性は大きい。

 米国はイエメン戦争に直接関与することは避けてきたが、その一方で国際テロ組織アルカイダの分派「アラビア半島のアルカイダ」や「イスラム国」(IS)のイエメン分派に対するテロ壊滅作戦は続けてきた。フーシ派もこの2つの分派テロ組織とは敵対しており、各派の利害が重層的に絡み合っている。

 こうした泥沼化した代理戦争が世界最悪の人道危機を生んできたわけだが、国連仲介の和平協議が何度も頓挫したことでも分かるように、バイデン政権が目指すイエメン戦争の終結は容易ではない。まずはサウジの軍事介入をやめさせ、その後に内戦の和平協議という手順だろうが、国民の3分の1が飢餓の危機にあえぐ状況をいつになったら救えるのだろうか。

  
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