未曽有の危機の原因が突き付けた
現行制度の課題とは
全国的に電力が逼迫した原因について、前出の小笠原研究理事は「複数の要因がある」と語る。
まずは12月中旬以降、列島を襲った強い寒波の到来により電力需要が増加したこと。その一方で天候不順によって太陽光発電の発電量が伸びず、供給力が低下したことも響いた。中でも決定打となったのは、日本の火力発電の主要燃料であるLNGの不足だ。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の白川裕LNG情報チーム調査役は「規模の大きな豪州のゴーゴンLNGプロジェクトをはじめ、複数のプラントで機器不良などの予期せぬトラブルが相次いだ。加えて、アジア全体のLNG需要が急増したため、LNG船の主要な通航路であるパナマ運河で船が渋滞し、追加調達が困難だった」と解説する。
今回の需給逼迫では、電力事業者の〝矜持〟に基づいた行動により、安定供給が守られたと言ってよいだろう。
しかし、電力システム改革によって全面自由化がなされた以上、本来は市場設計で安定供給を担保すべきだ。
昨年、将来の供給力を確保する目的で電源容量に経済的価値を認めて対価を支払う「容量市場」が開設された。この市場では、燃料不足で発電ができなかった場合にも発電事業者に罰則が課される仕組みがある。これは米国北東部の市場の制度を参考にしているが、日本と天然ガスの在庫環境が異なる同地域の制度を日本にそのまま適用することに合理性があるかは疑問だ。
エネルギーアナリストの大場紀章氏は「安定供給の最後の砦を市場設計のみによって担うことが本当にできるのか」と指摘する。現在の設計では、発電事業者がLNGを過剰に保有するメリットがない中で、この点をどのように適切に評価するかが問われる。
今後も何らかの要因で電力危機が再び訪れるリスクは常に燻っている。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、進められてきた全面自由化。だが、その制度そのものに欠陥があれば、現場の〝矜持〟に頼り続けることも早晩、限界を迎えるだろう。東日本大震災から10年という節目に起きた今回の電力危機。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」では済まされない。
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