ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン、ノルドストリーム2の建設を巡っては、トランプ政権時代より、米国はこれを厳しく非難し、制裁法の対象になるとして建設を中止するよう圧力をかけて来た。しかし、建設工事は2019年に一旦停止したが、今年の1月に再開している。
こうした状況を受け、マイケル・マコール下院議員(下院外交委員会共和党筆頭理事)とジム・リッシュ上院議員(上院外交委員会共和党筆頭理事)は、バイデン大統領に制裁法に従いノルドストリーム2に制裁を遅滞なく発動することを求める論説‘Biden Must Follow the Law and Sanction Nord Stream Now’をForeign Policy誌のウェブサイト に3月29日付けで寄稿している。これはノルドストリーム2の完成を阻止するために2020年と2021年の国防授権法に盛り込まれた制裁法の制裁を遅滞なく発動することを要求しているだけの論説であるが、制裁が未だ発動されていないことに議会共和党がしびれを切らしつつある状況を反映していると考えられる。
バイデン政権もノルドストリーム2には反対であり、去る3月18日、ブリンケン国務長官は「バイデン政権は法律を順守することにコミットしている」と述べ、このプロジェクトに関与している企業には米国による制裁のリスクがあり、直ちに撤退すべきであると警告する声明を発表した。国務省はこのプロジェクトに関与するパイプライン敷設船と企業の活動状況を定期的に議会に報告することがこの法律で義務付けられており、次回報告の期限は5月17日のようであるので、それまでには決断を迫られるのであろう。
ノルドストリーム2は大方完成しており、米国が制裁を発動してももはや止められないかのように見えるが、実際は、そうでもないらしい。2019年に成立した制裁法はパイプライン敷設船に焦点を当てた制裁を規定していたが、2020年末に成立した改正法によって制裁対象は大幅に拡大され、パイプライン敷設船に保険や修繕などのサービスを提供する企業の他、「ノルドストリーム2の完成と運用に必要あるいは枢要な試験、検査、あるいは認証のためのサービスを提供する」企業も対象とされている。制裁が課せられると、当該企業はドル取引から排除される。既に昨年11月の段階で、パイプライン敷設作業が一定の基準を充たしていることを認証するサービスを提供するノルウェーの企業DNV GLが制裁の対象とされることを怖れて撤退した。法律の文言は、パイプライの運用の段階においてすら、必要な諸々のサービスを提供する企業が制裁の対象となり得るように読める。
制裁が発動され、このプロジェクトが頓挫することがあれば、ドイツとの間に深刻な対立が発生する。バイデン政権としては、それは避けたいであろう。そのために、両国の間で何等かの妥協が検討されているのではないかと思われる。制裁法はまさしくノルドストリーム2を潰すために作られた訳であるから、抜け道を見つけるのは至難である。
議会共和党にはバイデン政権がドイツと汚い裏口の取引をするのではないかと警戒する声もあるようである。事態の打開は困難のように見える。それにしても、このような事態に立ち至る怖れが強いことはドイツには予見出来た筈である。どう対処する積りでいるのか、ドイツの考えていることは甚だ分かりにくい。
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