4月15-18日の菅総理訪米に際して、4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と、台湾という語が明記された。これは、日米首脳の共同声明としては、1969年の佐藤・ニクソン会談以来のことであるとして、日本国内では大きく報じられた。この他にもバイデン政権は、4月9日に国務省が、米台当局者の接触についてのガイドラインを改定し、台湾との接触の制限を緩和することを明らかにするなど、トランプ政権の路線を変えず台湾支援を強化している。
現在、米国では、台湾に対する「戦略的曖昧さ」を止めるよう求める議論が高まりつつある。「戦略的曖昧さ」は、台湾が中国に武力攻撃を受けた際に、米国がこれにどう対応するか明言しないでおくという政策である。中国を挑発せず、他方で、台湾が独立を宣言し、中国の台湾進攻につながることを避けることを意図している。
3月9日には、インド太平洋軍のデイビッドソン司令官(当時)が、上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると指摘したうえで、「戦略的曖昧さ」を見直すよう明言した。元国務省政策企画部長で現在は米国の有力なシンクタンクである外交評議会の会長を務めるリチャード・ハースは、昨年9月のフォーリン・アフェアーズ誌に、「戦略的曖昧さ」は「その役割を果たし終えた」とのエッセイを公表、明確な誓約こそが中国の誤算の可能性を低めるのだ、と主張している。
最近、「戦略的曖昧さ」を見直すべきであるとする考えは、議会も含めて広まっているようだ。「戦略的曖昧さ」政策はあまり良い政策ではない。したがって、この見直しが米国で議論されていることは、歓迎できることである。先に述べた通り、「戦略的曖昧さ」政策には、台湾が米国の安全保障約束に自信を持つと独立を宣言しかねず、中国の台湾進攻の糸口を作りかねないという台湾への不信が根底にあるが、中国本土と台湾を同列に置くような発想は、不適切であると思われる。
米中の対立が、バイデンが言うように民主主義と専制主義の争いであるならば、台湾は明らかに民主主義の側にある。台湾とは仲間としての話し合いができるのであって、台湾が独立宣言をしたいと言ったときに、待ったをかけるということも比較的容易にできるだろう。「戦略的曖昧さ」政策をやめることには、中国による反発があり得ること以外の問題はない。
台湾は、米ソ冷戦でのベルリンのような地位を今後の米中冷戦で占めるものと考えられる。情勢を安定させるためには、双方が対応ぶりを事前に明らかにし、それを双方が知っている方がよい。上記ハースも指摘する通り、「戦略的曖昧さ」よりも「戦略的明確さ」が必要である。
中台関係の将来について、一国二制度は、香港で中国が行ったことであり、その香港で一国二制度が最終的には破壊された様子を目の当たりにしているとあっては、台湾人としては到底受け入れることはできないだろう。とりあえず、現状維持しか選択肢はないと思われる。現状を力で変えようとするのは台湾ではなく、中国である。それは認めないと明らかにしておく方がよい策である。
ただ、米国内部には「戦略的曖昧さ」を維持すべしとの異論もあるようであり、この議論の帰趨は、まだ見極められない。
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