ウォールストリート・ジャーナル紙ワシントン編集長のジェラルド・サイブが、3月29日付の同紙で、習近平を抑止する最善の方法は、米国の力の過小評価を止めさせて、中国は強い力と国際的な影響力を持つ米国の反対を覚悟せねばならないと思わせることであると述べている。
サイブは、バイデン政権の戦略は、中国の米国衰退認識に対して、米国の力の維持により対抗していくことにあり、「クワッド(日米豪印)」の力には限界があるとしても、その首脳会議の主催は米国の力を見くびるなとのシグナルを送る最も意味ある方法だったと述べている。そして、強い米国の反対を習近平に覚悟させることこそ、習近平抑止の最善の方法である等と指摘する。何れの点も的を射ている。
国際政治の中で彼我の力のパーセプションは非常に重要である。現実に基づかない自信過剰は誤算のリスクを孕む。特に首脳間の個人的関係が強まれば強まる程その重要性は高まる。アンカレッジでの米中会談の後、上記の他にもワシントン・ポスト紙等、米国で中国の米国衰退論に対抗していくことの重要性を指摘する見解が散見されるようになった。至当な考えである。実際の政策等により認識を変えていくことが重要である。
米中アンカレッジ会談での楊潔篪の感情的な発言をみれば、確かに最近の中国は経済力の増大やパンデミックへの対応などを通じて自らの力や政治体制につき自信過剰のように見える。中国は確かに発展し強くなったし、そのサイズの大きさ自体が圧倒的な潜在力であると言わねばならない。しかし、総合的に見れば、その振る舞いや権威主義志向を巡る国際的な摩擦を含め種々基本的な問題を抱えていることも事実である。
中国には発言や行動、政策で対抗していく必要があるが、最も重要なことは自由世界が、実際の力、とりわけ軍事力、経済力、政治力、文化力を強化することであろう。その意味でバイデン政権が、トランプが内外で傷つけた米国の力の修復に努力していることは正しい方向だと思う。民主主義の外交手段化も基本的に今の時代下では良い政策になりつつあるのではないか。先ず家の中を整頓せよという考えは正しい。
サイブが、クワッドの限界を理解しつつもその価値を高く評価することは良いことだ。インド太平洋の状況を良く見つつ、クワッドの強みを上手く使い、強化していくことが重要である。クワッドがインド太平洋のNATOになることへの期待が一部にあるようだが、未だ脆弱な連合であり、余り適切だとは思わない。当面は、事実上個別の協力、共同訓練などの協力を進め、デファクトの同盟として育てることが最も有益かつ効果的である。
サイブは、バイデンがクワッド首脳会議主催のリーダーシップを取ったことを高く評価する。国際社会で必要な時にリーダーシップをとることができること自体が、力である。その意味で過去4年、米国が世界でのリーダーシップを放棄したことは米国の力を削いだし、中国をして米国衰退の認識を強めさせることになった。
最近の中国の自信過剰は、実際の行動にも表れている。香港がその例である。それ故、台湾問題に対する世界の関心も強まっている。トランプは香港問題を軽視し、英中合意の当事者である英国の動きも十分ではなかった。トランプ政権時代は、香港について中国に一定のフリーハンドを与える結果になったし、英国はEU離脱に狂奔していた。香港返還に係る英中合意を無視する中国の香港への攻勢は、これらの隙を利用する形で起きた面もある。米英がもう少し違った対応をしていたならば、状況はもう少し違っていたかもしれない。
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