世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年4月16日

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 バイデン政権は、外交政策の柱の一つとして「中産階級外交」を掲げている。これついて、バイデンに影響を与えたのは、2020年の大統領選挙の直前にカーネギー国際平和基金が発表した報告であったようである。9月23日付けで公表された‘Making U.S. Foreign Policy Work Better for the Middle Class’(米国の外交政策を中産階級にとり、より良いものにする)と題する同報告書は、体制変換を狙うような戦争は避け、あまり野心的でなく、米国内の中産階級の利益になるような控えめな外交政策を提案している。

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 報告書が強調した3点は、1)グローバル化は米国人の利益にならなかった、2)外交政策チームが国内政策チーム、経済チームと調整し、米国の政策を策定する、3)米国の中産階級の利益となるような外交政策につき新しい政治的コンセンサスを作るよう努力する、であった。

 この報告が、バイデンの「中産階級外交」の道標になったと考えられている。そして、バイデン自身2月3日の「世界の中のアメリカ」についての演説で、「海外での米国の行動は米国の労働者家族を念頭に置いて取らなければならない」と述べ、「中産階級のための外交を進めるためには国内経済の再生が必要である、私が就任後ただちに「米国救済計画」を提示し、バイ・アメリカン政策を強化する行政命令に署名したのはそのためである」と述べた。

 バイデンの「中産階級外交」の特色は、そのもととなったカーネギー国際平和基金の報告がそうであったように、野心的でなく、控えめなものであることである。野心的でないということは、歴代の大統領が米国の外交政策の理念として自由と民主主義を掲げ、トランプが「米国第一」をそれまでの外交理念のいわばアンチテーゼとして掲げたのに対し、際立った特色であるようにも見える。

 バイデンの「中産階級外交」を進めるためには、国内経済の活性化が必要である。バイデンは前出の演説の中で、「外交と内政の間にはもはや明確な線はない」と言っているが、国内経済の活性化についての言及はまさにそうである。

 「中産階級外交」は、何よりも中産階級の雇用の確保を目指す。そのため海外に進出した米企業の国内復帰を促し、バイ・アメリカンを進め、輸出を促進しようとするだろう。この「中産階級外交」に対しては、人間の顔をしたトランプ主義である、「貿易取引をしない」ことを婉曲に言っただけである、との批判もある。バイデンはトランプの政策の反省の上に立って同盟関係を重視すると言っているが、「中産階級外交」がそういう性質のものであるとすれば、同盟関係重視にはなじまないだろう。

 なお、フィナンシャル・タイムズ紙米国編集長のエドワード・ルースは、3月28日付の論説で、「米国の命運のカギを握るのは、バイデンが、1)米国の中産階級を支援することと、2)世界経済の場で中国を出し抜くことの二つをいかに巧みに行えるかである。バイデンが1)について前進しているのは良い知らせである。悪い知らせは、2)で政治的リスクを取ること(TPPへの復帰等)を2024年の再選まで待てないことである」と指摘している。

  
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