2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年10月26日

 米戦略・予算評価センター(CSBA)のクレピネヴィッチが、サイバー戦争についての包括的なレポートを発表し、サイバー攻撃の特徴について詳述し、早急にサイバー攻撃の脅威に対する関心を高め、それに対応する戦略を考える必要がある、と述べています。ここでは、その骨子についてご紹介します。

 すなわち、重要なインフラがサイバー攻撃にさらされる危険が高まっており、米政府高官などは、サイバー「真珠湾」の危険を指摘している。しかし、1930年代の空軍力についてと同様、現在、サイバー兵器がどの程度有用かを、自信を持って述べることはできない。

 核兵器に比べると、サイバー兵器に対する関心はこれまで低かったが、それは、1)核兵器の「広島」、「長崎」のように、サイバー兵器の威力を示す事例がないこと、2)サイバー兵器の破壊力が見えないこと、3)政府がサイバー兵器やサイバー活動についての情報を明らかにしたがらないこと、のためであった。

 サイバー兵器を核兵器と比較すると、類似点よりは相違点の方がはるかに多い。

 攻撃の方が防衛より有利であるとの点では、サイバー兵器と核兵器は同様だ。サイバー兵器と核兵器の大きな相違点は、戦争と平和の区別だ。核の場合、核兵器で攻撃すれば戦争だが、サイバーでは、例えば相手のコンピュータシステムに侵入し、論理爆弾(logic bomb; 予め設定した条件に合致したときに作動を開始するコンピュータ・ウィルス)を設置する場合、これは戦争行為とはみなされないが、後に論理爆弾を作動させれば、相手に著しい損害を与えうる。そのほかにも相手のネットワークの弱点を知り、データを盗むためサイバー手段が頻繁に使われている。

 核兵器は「不使用」が常識だが、サイバーは全く逆で、サイバー活動は常に、活発に、執拗に行われている。スピードは、サイバー兵器のほうが核兵器を上回る。核兵器の場合、冷戦期、大陸間弾道弾が米ソ間を飛ぶのに30分弱かかったといわれたが、サイバー兵器の場合、予め相手のシステムに埋め込んでおくことすら可能だ。

 また、サイバー兵器には、攻撃の対象が防御システムの強化などにより常に変化しているため、兵器がすでに有効でなくなっている可能性がある、という特徴がある。

 サイバー兵器が重要なインフラを攻撃した場合の損害は、核兵器による攻撃に比して少なく、サイバー兵器が壊滅的破壊をもたらす能力は、核兵器に比べるとはるかに小さいと考えられるが、サイバー兵器が使われる可能性は核兵器よりはるかに大きい。それは1)核攻撃の場合は攻撃者が特定できるので抑止が効くが、サイバー攻撃の場合、攻撃者の特定が容易でなく、これが攻撃の誘因となること、2)核兵器と異なり、サイバー攻撃能力を持つ国家、非国家主体の数が多いこと、3)サイバー兵器の使用、不使用の区別が明確でなく、許容可能なサイバー活動と壊滅的結果をもたらしうる攻撃に至る活動との間に一線を引くことが難しいこと、による。


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