ほぼ大半の人が予想できなかったに違いない。タンパベイ・レイズから事実上の〝戦力外〟となっていた筒香嘉智内野手が現地時間の15日、ロサンゼルス・ドジャースへ移籍することが決まった。両球団が正式に発表し、レイズにはドジャースから金銭が支払われるか、もしくは後日に発表される選手が移籍する。この筒香の獲得に伴ってドジャース側はメジャー出場の前提となるロースター40人枠に空きを設けるためエドウィン・リオス内野手を60日間の負傷者リスト(IL)に入れたことも明らかにした。
まず、ここまでのレイズと筒香を振り返ってみたい。かねてから編成にカネをかけずシビアな基本方針を貫くレイズだが、この筒香に関しては総額1200万ドル(約13億2000万円)で2年契約を締結し、前所属先の横浜DeNAベイスターズにポスティングシステムの譲渡金240万ドル(約2億6000万円)を支払っていた。球団としては異例の好待遇を用意してまで獲得に踏み切ったが、その結果は「失敗」に終わって高くついた。
移籍1年目となる昨季の筒香は51試合で打率1割9分7厘、8本塁打24打点と真価を発揮できなかった。コロナ禍で開幕が大幅に遅れ、変則の60試合制となったことも災いしたとはいえ、それでも打率の低さが顕著に目立った。
契約最終年となる今季も開幕からまったく調子が上がらず26試合で打率1割6分7厘、0本塁打5打点と大きく低迷。今月11日にはレイズから40人枠を外され「DFA」となった。大方の予想としては以降7日間のウエーバー期間中に獲得の意思を示すMLB他球団は現れず、FA(フリーエージェント)となって筒香自らの意思で日本のNPB球団復帰も選択肢に入れながら他球団と移籍交渉を行うか、もしくはマイナー降格を了承してレイズに残留するかのどちらかとみられていた。
ウエーバー期間中にトレードが成立すれば、移籍先のMLB球団が基本的に年俸負担の責務を追うケースが主だが、FA後ならメジャー最低保証年俸57万500ドル(約6200万円)のシーズン残りの日割り計算分のみで済む。とはいえ、ここまでの筒香の不振ぶりから考えればFAとなってレイズが年俸負担を確約させてもMLB他球団は興味を示さず、やはり古巣DeNAを筆頭としたNPB球団への復帰か、マイナーでの残留しかないだろうと米主要メディアも分析していた。恥ずかしながら筆者も、その1人である。
ところが、まさかの急転直下で筒香に手を差し伸べる〝エンジェル〟が現れた。それがナ・リーグ西地区の古豪ドジャースである。筒香獲得発表の数時間前にはロサンゼルス・エンゼルスからFAとなっていた通算667本塁打の「41歳レジェンド」アルバート・プホルス内野手とメジャー契約を結ぶことで合意に達したと米メディアで報じられたばかりだった。
水面下で筒香獲得の陣頭指揮を執ったのが、ドジャースの編成部門取締役に就くアンドリュー・フリードマン氏だ。実を言えば、もともとドジャース側はDeNA時代から筒香の本格調査を進めた上でポスティング争奪戦に加わっていた背景もあり、レイズでDFAになったタイミングを絶好機ととらえたフリードマン氏があらためてゴーサインを出したというのが今回の電撃獲得の大まかな流れである。加えてドジャースは野手に負傷者が続出して「野戦病院」と化している深刻な状況のため、その穴埋めのユーティリティープレーヤーとして内外野の守備経験を持つ筒香に白羽の矢を立てた格好だ。
しかも筒香獲得で驚かされるのはウエーバー期間中でありながらも現地発で既に情報が流れている通り、今季残り年俸の約6億4000万円はレイズ側が負担し、ドジャースはメジャー最低保証年俸の日割り計算分に多少上乗せした「プラスアルファ」の支払いだけで済むという点である。まるでほぼ「FA扱い」のような格安条件で筒香獲得に成功したのだから、フリードマン氏とドジャースにとってはほとんど痛くもかゆくもない。