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2021年5月20日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 新型コロナウイルス感染症対策で、世界で最も成功している国の1つがベトナムだ。1億近い人口を抱えながら、累計感染者数は5月16日時点で4200人弱に過ぎない。オーストラリアのシンクタンク「ロウイー研究所」が98カ国・地域を対象に実施し、今年1月に発表したコロナ対策の有効性に関する調査でも、ニュージーランドに次いで第2位の評価を受けている。ちなみに日本は45位である。

 しかし、最近になってベトナムでも次第に感染者が増えつつある。抑え込めていた市中感染も、4月27日以降に1100人以上が見つかっている。5月16日には過去最高の187人の市中感染者も確認された。こうした感染拡大の元凶として見られているのが、日本からの帰国者たちだ。

イメージ写真(AH86/gettyimages)

 日本とベトナムの往来は、1月に日本で緊急事態宣言が発令されるまで一方通行状態にあった。日本発の定期便は運行が停止し、母国への帰国を希望するベトナム人を乗せたチャーター便がたまに飛ぶ程度だった。一方、ベトナム発の便は運行され、日本へ向かう出稼ぎ労働者で混雑していた。昨年11月から1月にかけ日本へ新規入国したベトナム人は、実習生や留学生を中心に5万人近くに上ったほどだ。

 そんな状況が、緊急事態宣言以降に一変した。実習生らが入国できなくなったため、来日するベトナム人が激減したのだ。そして逆に、日本を離れるベトナム人が増えていく。チャーター便の本数が増えたからだ。

 そうしてチャーター便で帰国するベトナム人の間で、コロナ感染者が相次いで見つかっている。たとえば、4月12日からの1週間で、ベトナムに入国した89人の感染が判明しているが、そのうち39人は日本からの帰国者だった。この頃に飛んでいたチャーター便は週2〜3本なので、感染者の割合は決して少なくない。東京都内の会社を辞め、4月にベトナムへ帰国したフイさん(20代)が言う。

 「日本を出る際には、簡単な抗原検査だけでチャーター便に乗れました。ベトナム人実習生や留学生には感染者が少なくない。だから抗原検査は陰性でも、ベトナムに到着後のPCR検査で感染が判明する人が続出しているのです」

 抗原検査は短時間で結果が出るが、PCR検査と比べて精度が劣るとされる。

 日本からの出国は簡単にできても、新型コロナに対するベトナムの水際対策は厳格だ。入国後は2週間、軍の施設もしくは指定のホテルで強制的に隔離される。その間、計3回のPCR検査を受け、陰性が証明されてやっと施設などから出られる。4月中旬に感染が判明した「39人」の日本からの帰国者も皆、入国直後もしくは隔離期間中だった。

 そんな中、同月末になって、ベトナム当局に衝撃的は事例が判明した。日本からの帰国者の1人が、隔離を終えた後に発熱症状を訴えたのだ。そして検査で、コロナ感染が発覚した。

 この帰国者と濃厚接触があったと見られる人から、少なくとも数人が感染したことがわかっている。その後、ベトナム各地で市中感染者が急速に増えていくのである。

 ベトナムには、国境を接する中国などからの密入国が絶えない。以前は密入国者がコロナをベトナム国内に持ち込むケースもあったようだが、少なくとも現在、中国では感染は抑え込まれている。つまり、ベトナムにおける最近の感染拡大は「日本由来」の疑いがある。ホテルでの2週間の隔離を経て、現在はハノイの自宅に戻っているフイさんはこう話す。

 「ベトナムでは、『日本から戻った人は危ない』というイメージが広がっています。日本で東京や大阪といった人が『危ない』と見られているのと同じです」

 ベトナム政府の動きは早かった。5月5日、入国者に義務づけていた2週間の隔離期間を3週間へ延長することを決めたのだ。

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