エコノミスト誌5月1日号は、台湾について‘The most dangerous place on Earth’(地球上で最も危険な場所)と題する社説を掲載、米中は台湾の将来につての戦争を回避するためにもっと働かなければならない、と述べている。エコノミスト誌のような優秀で影響力のある雑誌が「台湾を地球上で最も危険な場所」と呼んだことの意味は大きい。
この社説が言おうとしていることは、およそ次の通りである。現在まで台湾をめぐっては、米中双方が建前上は「中国は一つ」といいつつ、その対応においては異なっていた。すなわち、戦略的曖昧さである。この戦略的曖昧さについては、中国の軍拡と、それに伴う米国の対中脅威認識の変化もあり、疑念が生じている。そうではあるが、米中が台湾をめぐる武力衝突に至るという大惨事を避けるには、戦略的曖昧さを今後も何とか続けていくことが望ましく、こういう紛争は休ませて先送りするのが一番よい、ということを社説は述べている。ただ、一方で、それで事足りるのかについては、社説自身も疑問を呈している。
台湾問題については、現段階では次のように情勢判断しておきたい。
第1:習近平が中国共産党創立100周年に当たる今年中に台湾に武力行使をして力で統一を実現しようとするという説があるが、そういう可能性はほぼないであろう。
第2:中国が台湾に武力侵攻した際には、米国はアジアでの自らの立場を守るために、反撃しないわけにはいかない。この米中戦争では双方が多大の損害を出すが、中国が失うものも多く、中国は慎重の上にも慎重になるだろう。孫氏の兵法では戦わずに勝つことが最善とされており、中国は武力の行使に伝統的に慎重である。
圧倒的な軍事的優位を築き、台湾側の譲歩を迫るために圧力を加えていくというのが中国の戦略の基本ではないかと思われる。
第3:インド太平洋軍のデイヴィッドソン司令官(当時)は3月に、米上院軍事委員会の公聴会で、6年後に中国が台湾進攻を企てる可能性があるという趣旨を述べている。もちろんその可能性はあるが、そうなる蓋然性があるかというと疑問がある。6年後の情勢は現時点では見通しが難しいし、今それを判断するのは困難と考えられる。
第4:戦略的曖昧さ政策の継続の可否については、それをやめることに中国がどういう反応をするかを含め、分析し、同盟国間で協議するのが良い。「米中の対立は『新冷戦』ではなく、中国の国際規範順守の問題である」など言われる一方で、上記の社説のように「米中熱戦」の話も出てきている。考え方の整理が必要と思われる。
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