2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2021年6月7日

(poetic_disorder/gettyimages)

 不完全燃焼のまま国内Uターンすることになった。MLBのサンフランシスコ・ジャイアンツ傘下3Aサクラメント・リバーキャッツを自由契約になった山口俊投手が帰国した。

 3日に更新した自身のインスタグラムでは日本球界復帰の意向を表明。インスタ上では「夢を追ってメジャーに挑戦しましたが、力及ばずシーズン途中での帰国となります。昨シーズンから続く様々な制約や厳しい規制がある中、自分なりに精一杯の努力を続けたことは誇りですし、必ず今後の糧にしなければなりません」と書き込み、米球界で苦楽をともにしたチームメートや関係者らに感謝の念を示しつつ「明日からは心機一転、新たなチームとのご縁を探し、期待して下さっていたファンの皆さんに頼もしい姿を見せれるように精進いたします」と続けていた。

 異なる環境下でコロナ禍にもさいなまれ、山口が海を渡ったタイミングは例年と比較しようもないほど確かに厳しい条件だった。昨季のMLBは新型コロナウイルスの感染爆発によって開幕が7月23日にまでずれ込み、変則の60試合制となった。そうした中で滑りやすいMLB公式球になかなかアジャストできず、苦しみ続けた。

 しかし一昨年オフ、所属していた巨人から球団史上初のポスティングシステムの利用を容認され、トロント・ブルージェイズと2年635万ドル(約7億円)の契約を締結した輝かしい船出を考えれば、そこにいかなる理由があったにせよ結果を出せずにあっさりと帰国の道を選んだ本人の最終決断には、どうしても嘆息をもらしたくなってしまう。昨季のMLBが7月下旬開幕となったことと照らし合わせれば、山口の米球界でのプレー期間はマイナーを含めて実質1年にも満たない。この事実は山口に対しての「がっかり感」を大きく助長させる。

 数字もサッパリだった。メジャー1年目の昨季、山口はブルージェイズで17試合に登板し2勝4敗、防御率8・06と安定した成績を残せず、チームはポストシーズンに進出したもののロースターに加わることはできなかった。今年に入って2月にブルージェイズからDFA、さらに自由契約となった後、SFジャイアンツとスプリット契約を結びマイナーで今季開幕を迎えたものの5試合に登板して防御率6・17と不振から抜け出せず、メジャーでの登板がないまま球団側に自ら契約破棄と退団の意思を伝えた。

 すでに各メディアでも報じられている通り、古巣・巨人と〝相思相愛〟の関係にあることから山口のG復帰は確実視されている。実際に巨人側も山口が自由契約となったことを受け、交渉に乗り出す構えを見せており、両者の間に障壁はない。

 今季の巨人は投手陣の苦境が続いていることから、先発だけでなくロングリリーフも可能なユーティリティー的存在の山口は魅力的だろう。しかも山口は巨人に2017年から3シーズン在籍し、最終シーズンの2019年にはキャリアハイの15勝をマークするなど最多勝利、最多奪三振、最高勝率の三冠に輝きチームのリーグ優勝に大きく貢献。巨人としては2年前のような大車輪の活躍とはいかないまでも、それに近い投球を山口には期待しているはずだ。〝投壊〟の穴を埋める救世主として2年ぶりとなるチーム復帰を実現させ、それこそ三顧の礼で迎え入れたいようである。

 だが、果たしてうまく事が運ぶであろうか。米国から帰国後の隔離期間を経てからの日本プロ野球界復帰に際して、逆に今度は2年ぶりにNPB公式球(統一球)へアジャストするステップも踏まなければならない。MLB公式球で苦慮したのだから、NPB公式球なら馴染みやすく簡単に感覚が戻るはずとの楽観的な考えはやはり安直であり禁物だ。開幕前の自主トレや春季キャンプ期間を経ずにシーズン中からダイレクトでいきなり合流する流れは、それなりのリスクが生じる可能性も覚悟しておかなければいけない。


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