科学者への個人攻撃
ファウチ博士への個人攻撃は一向に止む気配がありません。保守系の米FOXニュース司会者でトランプ応援団のタッカー・カールソン氏は、ファウチ氏を武漢ウイルス研究所の「パトロン(後援者)」と呼びました。カールソン氏は、ファウチ氏と武漢ウイルス研究所は「仲間」であ り、同氏は「愛国心がない人間」というメッセージをトランプ支持者に発信しています。
トランプ前大統領は武漢ウイルス研究所からの「流出説」を強く主張し、自分がオバマ政権で行われていた同研究所への資金援助を終了させたと強調しました。さらに、「ファウチは偉大な科学者ではなく、とんでもないプロモーター(助長者)だ」と、痛烈に批判しました。トランプ氏はファウチ博士がテレビ出演を好み、米国民を扇動しているというメッセージを送り、科学者としての同博士の信用を傷つける発言をしました。
加えて、トランプ氏と共和党にとって好都合の情報が出てきました。米国の情報公開法である「情報自由法(FOIA: Freedom Information Act)」により、20年3月から4月までのファウチ博士のメールが公開されました。
その中にエコヘルス・アライアンスの役員が昨年4月、新型コロナウイルスが最初に動物を介して人間に感染したとの立場を変えないファウチ氏に、感謝の意を表しているメールが見つかったのです。トランプ氏と共和党は、ファウチ氏、エコヘルス・アライアンス及び武漢ウイルス研究所が「連携」して真実を隠蔽しているという印象を、米国民に与える機会を得ました。
米議会共和党のマーシャ・ブラックバーン上院議員(南部テネシー州)、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)及びトム・コットン上院議員(アーカンソー州)はファウチ氏の辞任ないし解任を要求しました。ファウチ氏を辞任に追い込めば、バイデン政権の新型コロナ対応の評価は下がり、中間選挙を有利に戦えると、共和党は計算しているからです。ファウチ博士のメールは、バイデン政権と民主党に対する「攻撃材料」になっています。
「科学」と「人間愛」
変異ウイルスのデルタ株による感染拡大リスクに直面している状況で、政治指導者は科学者に政治介入をしていないのか「自己検閲」を行い、国民に対して人間愛に基づいたリーダーシップを発揮することが極めて重要です。バイデン氏は新型コロナウイルスによる死者数と犠牲者の家族について述べますが、菅氏は滅多に語りません。リーダーが人間愛なしに「国民の命を守る」と繰り返しても、心に響かないのではないでしょうか。
日米を問わず「選挙」に都合の悪い発言をする科学者は、政治家にとって邪魔者になります。尾身氏を含めた26人の有志と、ファウチ氏には政治圧力に屈せずに「科学的根拠に基づいた真実の語り手」であり続けることを期待したいです。
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