もうひとつ、従軍取材を決意した動機として、アメリカのメディア報道を見ていて違和感を感じたというのもあります。アメリカは戦争当事国なので、激しい戦局での様子を描いたり、兵士個人にフォーカスした報道はします。しかし、それらの報道で共通しているのは、常に米兵を英雄視した見方。もう少し第三者的な目線でこの戦争を見ることができないか。そういったこともありました。
――戦争当事国ですから、多少の政府の圧力もあって、そういった英雄視する報道が多かったのでしょうか?
大治氏:現在はないと思います。湾岸戦争当時は、書きなおしを命じられたこともあったようですが、現在はむしろメディア自身による自主規制ではないでしょうか。
というのも、当たり前ですが、アメリカの新聞の主要な読者はアメリカ人です。また「対テロ戦争」が「1パーセントの戦争」と言われるように、アメリカの成人の100人にひとりは戦場へ行っています。戦場へ行った兵士の家族や友人も含めれば、なんらかの形で戦争に関わっている人の割合が多い。そういった人たちが傷つくような報道やアメリカが非常に疲弊しているという視点での報道は、リベラルメディアといわれるニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストですら細心の注意を払っています。
――イラク戦争やアフガニスタン戦争は「戦争の民営化」と言われるほど、民間軍需会社が入り込んでいると言われています。実際に従軍取材でアフガニスタンの米軍基地を訪れて、民営化を感じるところはありましたか?
大治氏:アフガニスタン東部の米軍基地へ行くと、それこそサブウェイやサーティワンアイスクリームから食堂、ゲームセンター、ビデオレンタルショップ、映画館までさまざまな施設がありました。
ある日、食堂で食事をしていたら給仕係の人と話す機会があったので、施設について聞くことができました。彼はポーランド人で、施設の管理をしているのはアメリカの民間軍需会社の社員だそうです。食堂での仕事は英語が達者でなくても務まり、また戦地の基地ということもあり、非常に危険ですので、賃金の安い東欧の人がほとんどでした。グアンタナモ基地ではそういった施設で働くフィリピン人を多く見ました。つまりアメリカ人に比べ、賃金の安い外国人労働者を使い、アメリカの民間軍需会社が基地運営をしているのです。
第一次世界大戦くらいまでは、給仕やクリーニングも含め、兵士が交代で担当していたそうですが、現在は完全に民間に委託する形態をとっています。全体として、イラク戦争やアフガニスタン戦争では、民間軍需会社が基地の運営から警備までを担い、その規模が拡大しています。戦争の長期化に伴い、そういった民間軍需会社が相当な利益をあげています。そこに軍産複合体というアメリカの特徴を見ることができます。