――アフガニスタンでの従軍取材では、現地の人と話す機会はあったのでしょうか?
大治氏:米兵が近くにいる状況ではありましたが、米軍の通訳を通じて現地の人と話す機会はありました。そういった状況ですが、アメリカに対しての反感を表情や言葉で表す人たちもいました。
また、本書でも書きましたが、弟が戦闘に巻き込まれ、米軍の病院に入院しているお兄さんに話を聞くことができました。彼は「(アフガニスタンの反政府勢力)タリバンは子どもたちのいる学校に爆弾を仕掛けるから嫌いだ」と。しかし「弟の治療をしてくれているのは米軍だが、だからといってアメリカを好きになるわけではない」と語ってくれました。現地の人たちからすれば、タリバンであろうと、米軍であろうと、自分たちを危険に晒し、戦闘行為をする限り来てほしくない存在だというのが本音でしょう。
――オバマ大統領について、本書では柔らかいイメージとは裏腹に、軍事に関して積極的であると指摘されていますが。
大治氏:オバマ大統領はCIA(米中央情報局)による無人機を使ったターゲテッドキリング、つまり標的殺害という戦略をパキスタン北西部の部族支配地域などで非常に強化しました。米国は無人の攻撃機を米国本土から衛星通信で操作しています。この標的殺害という戦略は、通常の軍隊による交戦規則のような手順を踏まえて行う戦闘ではなく、CIAがもたらす情報によって大統領の許可のもと行う戦闘です。
パキスタンとアメリカは戦争をしているわけではありませんが、アフガニスタンと接しているパキスタン北西部の部族支配地域からタリバンへ人と物資が供給されているとして、その地域を集中的に攻撃しました。ただ、パキスタンの部族支配地域は、地形も険しく、天候条件も悪いため、なかなかCIAのインテリジェンス(諜報員)が入り込めない。そうすると、無人機の集めた間接情報からしか標的を決められないため、誤爆する可能性が高い。さらにその誤った標的の家族や隣人までも巻き込んでしまう。標的殺害は、正規の軍隊のようなルールも検証システムもないので、誤爆したとしても誰もチェックできないんです。
そうした攻撃はオバマ政権になってから、ブッシュ政権の数倍にも増えています。そういった表沙汰にならない戦闘をオバマ大統領は強化している一方、眼に見える形では「国際的な理解を得た形」で戦争をしているわけです。オバマ大統領はイラク戦争を「選択の戦争」と批判し、アフガニスタン戦争を「必要な戦争」と呼びました。つまり、イラク戦争はやらなくてもいい戦争で、アフガニスタン戦争はやるべき戦争だということで積極的に推進し、無人機による攻撃を拡大して民間人の被害を拡大させました。
もうひとつ、ブッシュ前大統領は、アメリカのリベラルメディアに非常に嫌われていたため、批判されることが多かった。一方、オバマ大統領は、リベラルメディアからさほど批判されることがない。仮に批判されたとしても、ノーベル賞を受賞したことや、柔らかなイメージが強くダメージが残らないのです。