Washington Files

2021年7月26日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 米国の新旧大統領交代から、6カ月を経過した。この機会に、トランプ前大統領が残した“負の業績”を整理し直してみることにする。それは「7つの大罪」と言ってもいい深刻なものだった。

(UPI/AFLO)

1. デモクラシー蹂躙

 自由主義諸国がよって立つデモクラシーは、3つの要素によって支えられている。すなわち、人民による統治、言論・報道・集会の自由、そして法の支配だ。

 ところが、彼は在任中、これらを軽視し、無視してきた。

 最たるものが、昨年大統領選挙結果の受け入れ拒否だ。バイデン民主党候補との戦いに敗れ、ホワイトハウスを去って半年以上たった今も、機会あるごとに、支持派集会で「選挙を奪取された」との根拠なき主張を繰り返している。

 在任中、政権批判を受け入れず、CNNテレビ、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなど有力メディアの報道を頭ごなしに「フェイク・ニュース」ときめつけ、主としてトランプ政権の主張を受け流すFox Newsテレビを足場に客観性に乏しい自説を展開してきた。

 白人警察官の暴行による黒人死亡事件に関連し、ホワイトハウス前広場で開かれた抗議集会では、一時、軍投入による鎮圧の意向を国防長官、統合参謀本部議長に打診するなど緊迫した場面が伝えられた。その一方で、選挙結果を覆すために、暴徒化した熱烈支持者による連議事堂乱入にエールを送った。

 有力誌「Foreign Affairs」は最新号で「彼はホワイトハウスの4年間を通じ、政敵の強制連行や収監を主張し、白人至上主義者に対し人種差別抗議集会での暴力を呼びかけ、リベラル派判事、連邦捜査局(FBI)、自ら任命した司法長官、政府倫理局、その他、自らの政治的意思に従わない組織や個人に対する戦争を仕掛けた」と厳しく批判した。

 実際、大統領自らが平時において、これほど先頭に立ってデモクラシーの根幹を揺さぶったケースは、途上国はともかく、他の先進諸国において、前例がないだろう。

2. コロナ禍軽視と危機拡大

 彼は退任後、比較的短期間でワクチン接種が進んだことについて「自分が開発を急がせたからだ」と自画自賛のコメントを繰り返した。しかし、これは事実誤認も甚だしい。ファイザーなどのトップ薬品メーカーは、昨年春に国内感染が急拡大する以前から開発に着手していた。トランプ政権の初期対応の遅れにより、事態が深刻化してきたため、大慌てで各薬品メーカーに開発・製品化を急がせたというのが実態だ。

 それまでの大統領のコロナウイルス問題に対する言動は、目を覆いたくなるほどの無知、偏見、怠慢をさらけだしていた。

 米国内での感染者が伝えられ始めた昨年2月、ホワイトハウス記者団の質問に対し「感染者はたった数人だ。心配ない」「春になれば終息する」「(感染拡大を警告する)CDC(連邦疫病予防センター)の言い分は信用できない」などと一笑に付し、その後さらに状況が悪化し始めてからも「夏休みまでには収まる」「レーバーデー(9月)連休中にピークを過ぎる」「サンクスギビングデー(11月)までには終わる」などと分別のない自説を伝播させてきた。

 この間、猛烈な勢いで感染が広がってからも、CDCが指導する「3蜜」回避措置を無視し続け、各地で開かれた支持派政治集会にはひんぱんに姿を見せ、マスクを着けないまま長広演説を繰り返した。

 結局、自らも感染が確認され、緊急入院、集中治療を余儀なくされたが、退院日にホワイトハウスに戻った際、待ち受ける報道陣の前で、それまで着けていた自分のマスクをバルコニーから投げ捨てるというハプニングまであった。

 超大国の最高指導者として、コロナ感染抑制の範を示すべき人物が、無責任極まりない振る舞いを見せ、大きな話題となった。

 こうしたコロナ失政の結果、全米の感染者数3370万人、死者も60万人という桁違いの世界最悪記録をもたらした。中国に比べ人口では4分1以下ながら、感染者数で中国の約300倍、死者数も110倍以上という“大惨事”に至らしめた。

 アメリカが突出した保健衛生上の深刻な苦況に追い込まれた背景には、複数要因があるものの、トランプ政権の当初からの怠慢が果たした役割は甚大だったと言わざるを得ない。

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