2024年4月27日(土)

From NY

2021年7月30日

治安改善を図った二人の市長

 1990年に就任した初の黒人市長、ディビッド・ディンキンズ市長は、警官の数を増やして犯罪率を減少させた。またクオモ州知事(現在のアンドリュー・クオモの父であるマリオ・クオモ)の援助を受けて、精神疾患を抱えるホームレス専用の特別シェルターの設置などをはかり、街の治安改善に貢献した。

 だがタイムズスクエアを赤線地帯から観光地に変えたのは1994年から2001年まで務めたルディ・ジュリアニ市長だった。検察官出身のジュリアニは治安改善を最優先事項にあげて就任後に警官の数を大幅に増やし、マフィアの資金源だったセックス産業をタイムズスクエアから追い出した。その一方で、この時期には無実の黒人の誤認射殺事件など、警察による暴行事件も増加した。

 それでも2001年の同時多発テロ後の対応など、ジュリアニ市長は機敏な対応を見せて世界中から称賛された。その彼が昨年の大統領選ではトランプ前大統領の顧問弁護士として、根拠のない不正選挙論を広めて暴徒を扇動し、6月にニューヨーク州の弁護士資格停止処分を受けた。市長当時のジュリアニの功績を知るニューヨーカーにとって、晩節を汚した姿は見るに堪えないものだった。

ニューヨーク市のトレンドを築いたブルンバーグ市長

 2002年から2013年まで務めたマイケル・ブルンバーグ市長はビジネス畑出身だけあり、時代の流れに敏感な市長だった。固定資産税を増税して赤字だった市予算を潤す一方、アフォーダブルハウジンズ(収入によって家賃を決める市営住宅アパートのようなもの)を増やして、若い家族など中産階級をニューヨーク市内に呼び戻した。また環境問題に積極的に取り組み、市内に自転車専用レーンを設置。バーも含む飲食店、さらには公園やビーチなど公共スペースでの全面禁煙に踏み切った。またこの国の医療費の高さから、病気の予防の大切さを力説して、レストランでのトランス脂肪酸の使用禁止、レストランメニューにカロリー表示を義務付けた。

 こうした政策はニューヨークで広がり始めていた健康ブームとピタリと一致して、相乗効果は街並みにもはっきり表れた。ヨガやピラティスのスタジオが激増する一方で、かつては贅沢の象徴だったステーキハウスは人気レストランのトップランキングから消えていった。市内では有機野菜やビーガン食品が簡単に手に入るようになり、気が付いたらかつての犯罪都市ニューヨークは、健康志向の洗練された街になっていたのである。

治安の悪化とパンデミック対応

 2014年にブルンバーグから受け継いだビル・デブラシオ市長は、配偶者が黒人女性ということもありマイノリティから強く支持されて当選した。高所得者に増税して、その予算で保育園を無料にするなど、社会福祉に力を入れてきた。賃貸物件のオーナー側に厳しい規制を敷く一方で、低所得者用のアパートを増やすなど、就任当初から弱者に寄り添う市政を貫いてきた。

 だが昨年から始まったパンデミックの対策では、大きな非難を浴びた。ホームレスシェルター内での感染を防ぐため、観光客がいなくなった市内のホテルに多くのホームレスの人たちを移転させたことで、裕福層が住んでいた区域の治安が急激に悪化。多くのアジア人が襲われたヘイトクライムも、そのいくつかはこうした臨時設置されたホームレス施設の周辺で起きている。民主党内からも、あまりにもやり方が極端なデブラシオ市長に対する批判の声は少なくなかった。

 こうして市長とともに変化していったニューヨーク。11月には、新しいニューヨーク市長が誕生する。新市長はパンデミックから息を吹き返しつつあるこの街に、何をもたらしてくれるのだろうか。

  
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