熊澤が当時を振り返る。
一見、本来の仕事に何の繋がりも見えないことをしていても、その物事を10年続ければ、ある時、繋がる瞬間がくると話す熊澤氏。若いうちは、あまり打算的にならず、やりたいと思ったことを素直に続けることも大事だという。
「ほかにも、誘惑はいくつでもありましたよ。たとえば株式の上場です。ブームになると、証券会社は実績がない赤字の会社でも上場させていた。ほかには全国でビアバーを展開すれば、というお誘いもありました。もちろん、ビジネスとして“いいな”とは思います。しかし、私は乗りませんでした」
彼は「一度、意識を10年後くらいにタイムスリップさせると、惑わされずにすむ」と話す。例えば、熊澤酒造のレストランが大手ファミレスチェーンのように全国展開した未来を思い描く。一方、1店舗のままだが、地域の人が集う憩いの場になり、この酒蔵の酒はうまいと評判が高い、といった未来も思い描く。そして、どちらがよいか考える。
「私は、全国に何百店もあって売り上げ1000億円を達成するより、地元の人に愛される造り酒屋である方がいいと思った。自分が“こうありたい”と思った通りに動いたことが、結果的によかったんです」
その後、熊澤は次々と銘酒を発売していく。店も、これをおいしく飲むためのつまみを充実させ、順調に売り上げを伸ばした。
最後に、彼はこう話した。
「若い人は、メリットがあるからやる、ではなく、好きなことをやった方がいい」
安易に結果を求めず、自分の内なる動機を探し、それに導かれ、道を歩む──遠回りに思える時もあるかもしれないが、これが人生という迷路を解く唯一の方法なのだ。
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