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「東京都と特別区である23区の関係は歴史的経緯や制度の複雑さも相まって、まるで〝鵺(ぬえ)〟のような存在となり、問題点が見えにくくなっている。だが、将来的には23区の合併や再編をしなければ立ち行かなくなる可能性もあり、残された時間は少ない。真剣な議論が必要だ」
都区制度に詳しいある有識者はこう警鐘を鳴らす。
7月4日に行われた東京都議会議員選挙では、新型コロナウイルス対策や東京五輪・パラリンピックの開催の是非が主な争点となったが、都区制度の将来像についての大々的な議論は見られなかった。
選挙でもほぼ争点にならないのであるから、普段から東京都民の間で東京都と特別区である23区のあり方が議論になることはなく、メディアでもほとんど取り上げられない。そのため国民の関心が高まらないのが現実だ。
しかも、都区制度は多くの国民がイメージする県と市町村の関係とは異なり、独特な行政システムとなっている。知っているようで知られていない東京都と23区の関係を紐解いてみよう。
明治時代から脈々と続く
区による自治とそのための主張
まず、地方自治法の条文上、「都の区は、これを特別区という」と明記されており、同じ「区」であっても政令市の下にある区と違う。
政令市の区長は市長が任命するが、23区は区長が選挙で選ばれ、区議会もあり、予算を執行して、条例も公布している。一見すると市町村と同じようだが、一般的に市町村が担う上下水道や消防は23区ではなく東京都が担い、他方で道府県が担っている保健所は23区が担っている。
どうしてこうした〝ねじれ〟があるのか。それは、明治時代から続く「区」の歴史が背景にあり、時代の流れの中で都と区とで自治権が揺れ動いていたことに起因する。
東京に「区」ができたのは、1878年。近代国家への地方制度改革の中で東京や京都、大阪に「区」を設置した。これに伴い、各区には公選の議会が設置されている。
89年、区の区域を「東京市」としたものの、東京、京都、大阪の3市では、一部の自治にとどまっており、3市はこれを解消すべく国へ働きかけ、98年に廃止。この後、京都と大阪の区の議会は廃止されて、区の議会が置かれるのは東京のみとなった。
時代が大正へと移り変わる中、市街地への発展によって、東京は都市としての問題に対応すべく、1932年により広い35区を管轄する〝大東京市〟が誕生した。しかし、太平洋戦争による空襲が始まる43年、「帝都防衛のため」に東京市は廃止され、国の組織下にある東京都を新設。区は都の内部的下級組織となった。