2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2021年8月23日

 「明治時代からの自治が『区』という形を持って脈々と続いているのは東京だけ。日本全国の市町村はそれぞれの歴史や土地柄を持っているが、東京の『区』においては、自分たちが自治を担ってきたということがアイデンティティーとなっている」

 都区制度を長年研究している地方自治総合研究所の菅原敏夫委嘱研究員は語る。事実、戦時下でも区の議会は存在し続けたのである。

戦後の民主化政策の中で
揺れる都と区の権限争い

 そうした区による自治への強い思いやこだわりが戦後、東京都へ権限移譲を求める形に変わっていく。

 戦後日本は、日本国憲法の制定とともに「東京都制」を廃止して地方自治法を制定。35区を現在の23区へと再編し、区長の直接公選制、自治立法権、財政自主権といった市町村に準じた自治体となった。

 しかし、区への権限移譲は都の判断に委ねられたため、「権限を欲しがる区」と、「戦中に得た権限は渡さない都」という現在につながる〝対立構造〟が生まれたのである。区には立法権も財政権もない状態が続いたが、52年に地方自治法が改正され、区長の直接公選制が廃止されるなど、区は再び都の「内部団体」となった。

 それでも区は、ただでは転ばなかった。「当初、区長を都知事の任命制にしようとしていたが、区の働きかけで区議会が選任し都知事の同意を得る『議会選任制』に改めさせた。一部でもいいから自治権を残したいという区の強い意志がそれを実現させたと言える」。都区の歴史を調査する特別区協議会の中嶋茂雄研究員は解説する。

 その後も区の自治への思いは絶えず、各区において区長公選制復活を軸とした自治権拡充運動が展開された。そして、高度経済成長期に入り、通勤ラッシュや交通渋滞、水不足など、都市特有の問題を数多く抱える。第1回東京オリンピックも控えており、都が多くの権限を持つことへの限界も指摘された。64年に福祉事務所などの事務移譲や課税自主権が区へと渡された。

 本来ならば区が行う業務を抱えた都政はその後、麻痺状態に陥る。「機能不全となった都政に対し、区政に区民の声を反映させるべきとの住民運動も巻き起こり、国としてもこのままでいいのかという状況になった」と中嶋研究員は話す。

 74年には、区長公選制が復活。区が人事権も確保し、ほぼ一般市並みの権限を持つことになった。その後、地方分権改革の機運が高まり、2000年の改正地方自治法施行で区は内部団体から基礎的な自治体となった。

それでも続く
権限移譲に関する議論

 法律的な決着は見られたものの、都区の役割分担の明確化とそれに基づく財源配分についてはまだ解決されていない。

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Wedge 2021年8月号より
あなたの知らない東京問題
あなたの知らない東京問題

東京と言えば、五輪やコロナばかりがクローズアップされるが、問題はそれだけではない。

一極集中が今後も加速する中、高齢化と建物の老朽化という危機に直面するだけでなく、

格差が広がる東京23区の持続可能性にも黄信号が灯り始めている。

「東京問題」は静かに、しかし、確実に深刻化している。打開策はあるのか─。


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