東京オリンピックの最中、4000個にも上る過発注の弁当が捨てられたことが報じられた。近年、「食品ロス」には厳しい目が向けられる一方で、ほとんど知られていない「ロス」がある。生コンクリート(以下、生コン)の「ロス」である〝残コン〟問題だ。
普段、気にとめることもないコンクリートは、文明社会を下支えする重要な素材だ。コンクリートがなければ、住宅やビル、道路などさまざまなインフラを維持することはできない。日本では1990年代初頭のバブル崩壊以降、コンクリートの需要は減少傾向にあるが、世界全体で見れば、需要は増え続けている。しかも、コンクリートの原料は、水、砂・砂利、セメント(石灰石)であり、それらは地球を削ることで生み出している。
建設現場では、生コンが不足することを避けるために、施工者(ゼネコンなど)が生コン業者に多めに発注するため、どうしても余りが出てしまう。また、生コンは硬化するため、基本的に90分以内に使用しなければならないという決まりがある。例えば運搬中に交通渋滞などで90分を過ぎれば、「不合格品」としてその生コンは使用することができない。そのため、「残コン」が発生すること自体は不可避な側面がある。
なぜ買い手ではなく売り手が
〝残り物〟を処分するのか?
しかし、問題なのは施工者が購入したにもかかわらず、残った生コンを処分するのが売り手である生コン業者であるということだ。
考えてみてほしい。魚屋が仕入れた鮮魚が余ったからといって、卸業者や漁師に引き取ってもらうことはあり得ない。販売した時点で「所有権」は販売者から購入者に移る。中小企業が多い生コン業者にとっては、「残コン」処理の手間とコストが大きな負担となっている。東京都内周辺の生コンクリート価格は1.5万円/立方㍍(以下、㎥)程度だが、㎥当たりの処理費は同等以上にかかるという。
2019年、日本では約8200万㎥の生コンクリートが出荷されたが、そのうち3~5%(東京ドーム2~4個分)が「残コン」になっているとされる。この「残コン」問題の周知・改善を目的に20年10月に一般社団法人生コン・残コンソリューション技術研究会(RRCS)が設立された。
RRCSの代表理事に就任した日本建築学会副会長で、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻・野口貴文教授は「コンクリートのリサイクルを研究テーマにしていたこともあって、コンクリートは、水の次に多く使用される材料であるにもかかわらず、石灰石、砂など原料の枯渇が一般的に知られていないことが問題だと考えていた」と話す。RRCSでは「残コン」に対する問題提起に加えて、リデュース(量の削減)・リユース(再利用)・リサイクル(循環)、そしてリロケート(別用途開発)、リカバー(不良品の蘇生)という「3R+2」を進めている。