2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2021年8月31日

現場で進む「残コン」解決策
CO2削減の救世主への道

「残コン」の再利用や資源の省力化に向けた動きは現場レベルで始まっている。「残コン」は生コン業者が運ぶミキサー車だけではなく、現場で生コンを圧送するコンクリートポンプ車でも発生する。ポンプ車では通常生コンを効率良く圧送するために先行材としてモルタルが0.5㎥(約1㌧)ほど使用される。モルタルは、セメント、砂、水が原料で、コンクリートとの違いは砂利が入っていないことだ。ここで使われるモルタルは、生コンと一緒に打設することができないため、使用後は「残コン」として生コン業者が引き取ることになる。

 生コンの圧送を行う小澤総業(東京都西多摩郡日の出町)では、このモルタルに代わる先行材を独自に開発してこのほど販売を開始した。開発を主導した同社の小澤辰矢会長は「食品添加物100%から作っており、販売価格も600円でモルタルの約1万円から大幅なコストダウンを実現した」と、環境にもコストにも優しいことを強調する。

 同じく前出の宮本氏も、イタリアの建材メーカー・マペイ社と提携して同社の開発した混和材を販売している。これを「残コン」に投入して自然乾燥させれば、砂と砂利に戻るというものだ。これによって同社では「残コン」の100%リサイクルを実現している。ただし、これについてはJISに適合しておらず、建物などの構造物に使うことができない。そのため、コンクリートブロックなどとして使用している。このような新たな利用法を促す制度改正も必要となる。

混和材を入れて自然乾燥された「残コン」 (WEDGE)

 さらに、ここに来てコンクリートは、カーボンニュートラルを実現する素材としても注目が集まっている。「CO2を吸収するコンクリート」の開発が進んでいるからだ。前出の野口教授らは空気中のCO2と使用済みコンクリートを原料とする「カルシウム・カーボネート・コンクリート(CCC)」の基礎技術を開発したと、この4月に発表した。

「コンクリートはCO2を固定化して先祖返り(炭酸塩)する。そもそも、炭酸塩からCO2を脱することでコンクリート(セメント)になっている。鉄筋コンクリートの耐久性で考えるとマイナスだ。しかし、CO2を吸収するという点ではプラスだ。だからこそ、これまでのように残コンが、路盤材としてアスファルトの下で空気に触れない状態で使用されることはもったいない」(宮本氏)のだ。

「残コン」は資源として再利用できるだけではなく、CO2も吸収する。「まずはそのことを多くの人に知ってほしい」とRRCSに参画する関係者は口にする。コンクリートの恩恵を受けながら現代社会に生きる我々は、こうした声にも真摯に耳を傾けるべきだ。

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Wedge 2021年9月号より
真珠湾攻撃から80年
真珠湾攻撃から80年

80年前の1941年、日本は太平洋戦争へと突入した。
当時の軍部の意思決定、情報や兵站を軽視する姿勢、メディアが果たした役割を紐解くと、令和の日本と二重写しになる。
国家の〝漂流〟が続く今だからこそ昭和史から学び、日本の明日を拓くときだ。


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