番組の取材チームとNHKのネット取材部門が分析をした結果、〝ワクチン不妊デマ〟の発信者をたぐっていくと、約20人の発信者にたどり着いた。彼らの発信がシェアやリツイートされて、今春から若者たちにデマが広がったのである。さらに、この約20人が根拠としていたのは、ファイザー社の元副社長の誤った主張にあった。それは〝ワクチン陰謀説〟である。
SNSビッグデータ解析の専門家である、東京大学院・工学研究科の鳥海不二夫教授は、デマを発信するグループには、主に3つあると指摘する。第1は、世界の外交政策や日本政府を批判するグループ、第2は、犯罪やカルトに興味があるグループ。そして、最後は、「アメリカは一部のエリートやメディアによって支配されている」と陰謀論を主張する「Qアノン」である。
鳥海教授の分析によると、〝ワクチン不妊〟誤情報を1人で500回以上も発信していた人物もいた。鳥海教授は次のように語る。
「デマはデマの顔をしてやってこない。デマにだまされると思っていたほうがいい。だまされても、新しい情報が入ったら、柔軟に考えを変えていかなければだめだ」と。
毎日の発信と質問に答えるドクターたち
「こびナビ(COV-Navi)」は、国内外の日本人医師たち約30人が、誤情報に対抗するために立ち上げた、ホームページとSNSによるサイトである。参加者は全員ボランティアである。ワクチンの効果や副作用について、毎日発信を続けている。
チームのメンバーである、千葉大学医学部附属病院の感染症専門医の谷口俊文さんは「正しい情報なくして、感染症の重症化は防げない」と、「こびナビ」の設立の動機を語る。谷口さんは、忙しい業務の間の休み時間を使って、サイトの読者の質問にも答えている。質問は、1日に約400件も寄せられている。
同じくメンバーの医師・黒川友哉さんと、質問者の応答の例は。
――ワクチンを接種すると、数年後に死ぬと(ネットに)書いてあった。長期的な副反応はどのように考えればいいのか?
黒川 今回のワクチンは、数日以内に体内から消えるので長期的な副反応は考えにくいです。実際に、治療では1年以上経ってから重大な副反応は報告されていません。長期的な副反応については、世界中で常に監視が続いています。
「こびナビ」のメンバーは、ネットの誹謗中傷にもさらされている。ハーバード大学医学部助教授の内田舞さんは、3男の妊娠中にも情報発信を続けた。アメリカ疾病対策センター(CDC)や日本産婦人科学科などの報告をもとにして、「妊娠中に(コロナ)感染すると、妊娠していない同世代の女性に比べて重症化しやすい」と。これに対して、「参考になった」という意見が寄せられた。しかし、その一方で「(内田さんの3男の)死産報告書」「赤ちゃんのための葬儀の準備」といったメール届いた。
内田さんは「絶対に元気なが子を産まなければならない、という責任感が生まれた」と、涙ぐむ表情を浮かべた。「パンデミックを終わらせるには、正しい情報を知ってもらいたい」と強調する。