安値輸出から脱せない日本
イノベーション力が劣る理由
日本企業の収益力の乏しさは、日本と米国あるいは経済協力開発機構(OECD)の輸出入物価の推移(図2)からも見て取れる。
日本は輸出物価が傾向的に輸入物価を下回っている。これは、日本企業が利益を圧縮する売値でしか輸出できていないことを示している。一方、米国およびOECD全体では、輸出物価が輸入物価を上回り、利益がますます確保される売値が実現している。
デフレ基調で製品値上げが通りにくい日本の特殊性が日本の輸出物価に反映しているとの見方もあろう。しかし、輸出物価は世界に輸出する際の売値であり、日本国内で値上げが通らないことと厳密なリンクはない。
むしろ、日本の輸出入物価が示すのは企業が安値で輸出している状況であり、その分イノベーションや付加価値創造力、産業競争力が他の先進国企業より劣っていると見ることができる。そして、日本に世界有数のヒト、モノ、カネそして技術があることを勘案すれば、日本企業が国内の経営資源を他の先進国よりも不十分、非効率にしか活用できていない状況もうかがえる。しかも、輸出物価が輸入物価を下回ることは、収益面から設備投資、賃金を抑制せざるを得ないことにも通じる。
経済産業省は、製造コストの何倍の価格で販売できているかを示すマークアップ率の国際比較をしており、機械製造業で日本1.3倍対米国1.6倍、情報産業では日本1.5倍対米国2.7倍など日本の利幅は小さい(産業構造審議会第2回成長戦略部会参考資料)。この結果を踏まえ、経産省は日本企業の課題を「同質的な製品・サービスによるコスト競争ではなく、高付加価値化にある」(同上)としているが、ここからも付加価値と収益力の向上を重視する米国企業と相対的に安値の「価格戦略」に重点を置く日本企業の差が見て取れる。
人件費削減で生産性維持
ゼロサム的〝縮こまり経営〟
日本企業は、その低収益の故もあって、企業活動の根幹をなすヒト、モノ、カネ、情報、ノウハウといった経営資源を欧米企業ほどには重視していないようにすら見える。人件費総額を示す雇用者報酬の増減率と生産性すなわち一人当たり付加価値の増減(図3)を見ると、米国では雇用者報酬と生産性は同じような増減傾向を示しており、継続的に生産性向上が雇用者報酬の増加につながっている。
しかるに、日本の生産性の伸びは一進一退で、雇用者報酬と反比例するような関係すらうかがえ、収益力が乏しい日本の企業では人件費削減が生産性を支えるゼロサム的な縮こまり経営が持続していると言える。ちなみに、2000年と19年で比較すると、日本の労働生産性は1.10倍に増えているものの実質平均賃金は0.89倍に下がっている。これでは、日本企業が人材を重視し、その活用を積極的に進めているようには到底見えない。
経営資源を米国企業ほど重視しない日本企業の経営姿勢は設備投資でも窺える。
◇◆◇ この続きを読む(有料) ◇◆◇